飲酒と慢性疾患との関連

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  1. 飲酒と高血圧との関連
  2. 飲酒と肥満、糖尿病との関連
  3. 飲酒と死亡率との関連
  4. 飲酒と循環器病との関連
  5. 飲酒とがんとの関連
  6. 飲酒と認知症との関連
  7. 飲酒と骨粗しょう症との関連

飲酒と高血圧との関連

●多量飲酒の影響
 
・多量飲酒は長期的には血圧を上昇させる。
 
・"NIPPON DATA"を始めとする多くの疫学研究では、アルコール摂取量が多くなればなるほど、血圧の平均値が上昇し、高血圧の頻度が増加することが示されている。
 
・飲酒習慣のある男性高血圧患者において飲酒量を約80%減じると1~2週間のうちに降圧を認めた。
 
・Ueshimaらの介入試験では、飲酒習慣のある軽症高血圧患者の飲酒量をエタノール換算で平均56.1mL/日から26.1mL/日に減じると、収縮期血圧の有意の低下を認めた。
 
・メタ・アナリシスでもアルコール制限の降圧効果が示されている。Xinらの成績では、29~100%のアルコール制限で有意の降圧を認め、アルコール制限の程度と降圧には量・反応関係を認めた。
 
●適正な飲酒量
 
飲酒はエタノールで20g/日以下にすべきであるとされている。
 
●少量の飲酒
 
・高血圧患者では少量の飲酒はむしろ心血管病のリスクを改善し、飲酒量と心血管リスクはU型の関係を示すという疫学研究(心血管病のない成人男性が対象)が報告されており、多くの同様の報告がある。
 しかし、少量の飲酒の心血管保護効果の有無については、今後の検討が必要で、これらの疫学研究の成績をもとに飲酒をしない人に少量の飲酒を勧めるべきではない。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

飲酒と肥満、糖尿病との関連

●アルコールとカロリー
 
・アルコール自体は太る原因とならないことが証明されている。
・アルコールは体内で分解され、水と炭酸ガスになってしまうので、最終的にカロリーがゼロになるため。
 カロリー源として残るのは、ビールなら麦芽のエキス、日本酒なら米のエキス、ワインならブドウのエキスなど、原料のエキス分と添加物のみ。
 
※参考資料『岡田正彦(2015)医者が絶対にすすめない「健康法」 PHP研究所』

 

・アルコールは即エネルギーとして使われるが、つまみを一緒に食べていると食事のエネルギーが睡眠中に中性脂肪となって体内に蓄積されやすい。
 
・アルコールは胃液の分泌を増加させ、食欲を増進させて消化、吸収を増強する作用がある。
 
・アルコールはそれ自体が7.1キロカロリー/gと高カロリーのうえ、肝臓細胞におけるエネルギー燃焼サイクルを抑制し、脂肪の分解を止めてしまう。
  ↓
加えて皮下脂肪組織や内臓脂肪から脂肪酸を血液中に放出させる。
  ↓
脂肪酸は肝臓に行って中性脂肪の材料となり、肝細胞から余剰の中性脂肪が血中に放出。肝臓の中性脂肪増える。脂肪肝やアルコール性肝炎の原因。
  ↓
インスリン抵抗性状態、糖尿病
 
※参考情報『小坂眞一(2008)心臓病の9割は防げる  講談社』

 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●飲酒と2型糖尿病の発症について
 
・糖尿病の発症リスクを、男女別に、年齢、喫煙状況、エタノール摂取量、肥満指数(BMI)、糖尿病の家族歴、運動習慣、高血圧の既往について検討した。
 
○糖尿病発症リスクの結果
・エタノール摂取量については、男性で1日あたり23g(日本酒換算で1合)以上のグループで糖尿病リスクが有意に上昇していた。一方、女性では飲酒者が少なかったため、飲酒量と糖尿病リスクの関係は見られなかった。
 
○男性の飲酒とBMIとの関連の結果
・男性の飲酒量と2型糖尿病発症との関連について、さらにBMIでグループ分けしたうえで解析を行った。
・BMI 22以下の男性では、飲酒量が増えるにつれて糖尿病リスクも高くなった。お酒を飲まないグループにくらべ、エタノール摂取が1日当り23.1~46.0グラム(日本酒換算で1~2合)のグループで1.9倍、46.1グラム以上摂取するグループでは2.9倍まで高くなった。
 一方、BMI 22より大きい男性では関連は認められなかった。ただし、BMI 22より大きいグループでも、飲酒によって糖尿病リスクが減少するというわけではなかった。
 
○推察
・アルコール摂取によってインスリンへの反応(感受性)は改善するとされるが、その反面、長期間飲酒を続けるとインスリンの分泌量が低下することも報告されている。
・今回の研究では、日本人のやせた男性グループで、飲酒による2型糖尿病リスクの明らかな上昇がみられた。やせているグループには、もともとインスリンの分泌能力が低くて太れない人などもいるために、インスリン感受性の改善というメリットよりもインスリン分泌量の低下というデメリットの方が強調される結果になったと考えられる。
・これまでに欧米から報告された研究結果には、飲酒が2型糖尿病に予防的であるというものもある。最近日本から発表された別の研究では、お酒を少し(1日当り日本酒換算で1~2合)飲むグループでは予防効果が見られたというもの、やせているグループでは飲酒によってリスクが増えるが、BMIが22-25のグループでは予防的であったというもの、男性では飲酒によってリスクが増したというものがあり、一致していない。

飲酒と死亡率との関連

●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

飲酒と総死亡・がん死亡との関連
 
・飲酒の程度により、6つのグループに分けて、年齢・喫煙・生活習慣などの影響を統計的手法により調整し、お酒を飲まない人達の死亡するリスクを1とした場合の相対リスクを計算した。
 
○結果
・飲酒状況と死亡との関連は、時々飲む人達(2週に1日程度)は0.84、エタノールに換算して週に1~149g飲む人達(2日に1合程度)は0.64となり、死亡リスクが低くなっていた。さらに、週に150~299g飲む人達(1日1合程度)は0.87、週に300~449g飲む人達(1日2合程度)は1.04、週に450g以上飲む人達(1日4合程度)は1.32と、段々と死亡リスクが高くなる傾向が認められた。がんによる死亡だけに注目した結果も、同様なJ型カーブが観察された。
・このような傾向をアルファベットのJの字に喩えJ型カーブの関連と称し、虚血性心疾患が多い欧米ではしばしば観察されている現象。
 がんによる死亡だけに注目した結果も、同様なJ型カーブが観察されたが、お酒を沢山飲むグループの人達でよりがん死亡のリスクが高くなる傾向が認められた。
 
○お酒を飲まない人も健康のために飲んだ方が良いのか?
・この研究では、それに対する確実な回答を出すことが出来ない。
 一つには、お酒を飲まない人達の中には、昔は沢山飲んでいたのに、健康を害して飲まなくなった人達が一部混ざっていて、飲まないグループの死亡率を上げた可能性が高いから。
 さらに、非飲酒者グループには、もともと病弱でお酒を飲めなかった人達がいることが予想される。

 

飲酒および飲酒パターンと全死亡・主要死因死亡との関連について
 
・飲酒および飲酒パターンと全死亡リスクおよびがん、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患及び外因死を含む主要死因死亡リスクとの関連を検討した。
 
○全体の結果
・男性では、お酒を全く飲まないグループに比べ、月1日~3日、週449g以下飲むグループで全死亡リスク低下が見られた一方、週600g以上飲むグループでは有意なリスク上昇が見られた。
・女性では、全く飲まないグループに比べ、月1日~3日、週149g飲むグループで全死亡リスク低下が見られた一方、週450g以上飲むグループで有意なリスク上昇が見られた。
 
○主要死因別の結果
・男女ともにがん死亡、脳血管死亡及び心疾患死亡については、少~中程度量飲むグループで死亡リスクの低下がみられた。さらに男性の呼吸器疾患死亡でも同様のリスク低下が見られた。
・お酒を飲まない人を除外し、現在お酒を飲むグループのみを対象として解析したところ、男女ともにお酒を飲めば飲むほど全死亡リスクやがん及び脳血管疾患による死亡リスクが上昇することが分かった。
 
○飲酒と死亡リスク関連の推察
・少量から中量の飲酒で死亡リスクの低下が見られる理由として、低用量の飲酒によるHDLの増加や血漿フィブリノーゲン値の低下を介した血液凝固性の低下などがあげられる。
 また、少量から中量の飲酒は抗炎症作用があるといわれており、これらが循環器疾患死亡リスク低下に作用しているのかもしれない。
 さらに、少量から中量の飲酒では免疫機能やインスリン抵抗性の改善につながるという報告があり、この点でがん死亡リスクとの関連があるかもしれない。
・多量飲酒は様々な疾患のリスク要因であることが多くの先行研究で報告されている。本研究でも、現在お酒を飲む人に限った解析では、多く飲むほど死亡リスクが上昇することが分かり、適量飲酒の重要性が再確認された。

 
 
●他の研究事例
 

○飲酒の健康効果に対する従来の報告、異論
 
・多くの研究で、非飲酒者に比べて、1日1-2杯の飲酒者の心血管系疾患の罹患リスクと死亡リスクが低下することが報告されている。
 
・アルコールの効果については議論も多く、選択バイアスの結果ではないかという説もある。非飲酒者は、飲酒やその他の理由でアルコールをやめた者や虚弱体質など健康上の理由から飲まない者が含まれている可能性があることや、それ以外にも未知の交絡因子が存在する可能性が指摘されている。
 
・高齢者の飲酒には、加齢に伴うアルコール代謝の低下などでアルコール関連問題が起こる可能性もある。
 
○英国ユニバシティ・コレッジ・ロンドン他による研究報告
 
・国民死亡統計にリンクした1998-2008年の2つの英国健康調査のインタビューのデータを分析。
・参加者は各々18,368名と34,523名(50歳以上)で、各々平均9.7年と6.5年にわたって追跡調査。
・結果は、個人、社会経済、生活習慣上の要因によって調整された。
 
・その結果、非飲酒者に比べて、1週間に15-20単位、1日に最大0.1-1.5単位のアルコールを摂取する50-64歳の男性と、1日の最大摂取量には関係なく週当たり10単位以下しか摂取しない65歳以上の女性に主として限定された保護効果が認められたに過ぎなかった。そして効果は強いものではなかった。
 他の性年齢グループには摂取量に関係なく効果がみられなかった
 
・研究者は、飲酒の保護効果は"選択バイアスによって説明されるだろう"と強調している。
 
※参考文献
All cause mortality and the case for age specific alcohol consumption guidelines: pooled analyses of up to 10 population based cohorts.

飲酒と循環器病との関連

○アルコールとHDL
 
・アルコール摂取量との正の関連(アルコール摂取量の増加に伴ってHDLは上昇する)以外にはあまり明らかにはなっていない)。
 
○アルコールと中性脂肪
 
・アルコール摂取量と血清中性脂肪濃度との間に正の関連を認めた研究があり、白人を対象にしたメタ・アナリシスでは、アルコール摂取量は血清HDL濃度と血清中性脂肪濃度を上昇させることを示していた。
 また、韓国におけるコホート研究でも、アルコール摂取量が増えるほど血清中性脂肪濃度は増加していた。
 ところが、他のコホート研究及びメタ・アナリシスを見ると、白人女性ではアルコール摂取量と血清中性脂肪濃度は有意な関連が示されなかった。
 中国及び香港における介入研究でも、アルコール摂取(10gエタノール/日)は血清中性脂肪濃度とは有意な関連がなかった。
 6の介入試験をまとめた最近のメタ・アナリシスでも、両者の間に有意な関連は認めなかった。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

飲酒習慣と心筋梗塞の関連について
 
・適度な飲酒は心筋梗塞を予防するという疫学研究の結果が、心筋梗塞の発生率が高い欧米を中心に多数報告されている。
 これまで日本で行われた小規模の研究で、すぐ赤くなる人では飲酒によって心筋梗塞になりやすくなるという報告があった。
 本研究では、生活習慣に関するアンケート調査を実施した男性を対象に、まず飲酒ですぐ赤くなる・ならないで分け、それぞれのグループで、飲酒量とその後約9年の追跡期間中に発症した急性心筋梗塞との関連を調べた。
 
○結果
・飲酒後すぐ赤くなるグループでも、赤くならないグループでも、飲酒量が増えるにしたがって、急性心筋梗塞の発症リスクが低下した。
 また、1日当たり3合以上の大量飲酒者でも、急性心筋梗塞のリスクが高くなることはなかった。
 
○推察、注意点
・予防のメカニズムについては、エタノールそのものの効果から、特に赤ワインに含まれるポリフェノールなどの効果まで、幅広く報告されている。
 今回の分析では、お酒の種類に関わらず、エタノール量に換算して検討した。エタノールには、HDLを増やす作用、血液を固まりにくくする作用などが知られている。
・同じコホート研究から、1日当たり平均で1合(日本酒換算)を超える飲酒が、総死亡、がん、全脳卒中、2型糖尿病、自殺のリスクと関連することが報告されており、前述したアルコールの作用は、必ずしもすべての病気に予防的というわけではないことに注意。

 

飲酒と脳卒中発症との関連について
 
・生活習慣についてのアンケートの回答結果にもとづいて、飲酒と脳卒中発症との関連を調べた。
 
○結果
・アルコール摂取量が日本酒にして"1日平均3合以上"の人は、"時々飲む"人に比べて、1.6倍脳卒中になりやすかった。
・アルコール摂取量が日本酒にして"1日平均約1合未満"から、飲酒量が増えるにつれて、出血性脳卒中の発症率は段階的に増えていった。
 この理由としてはアルコールの血圧上昇作用以外に、血液を固まりにくくする作用が働いているためと考えられている。
・アルコール摂取量が日本酒にして1日1合未満では、"時々飲む人"に比べて、脳梗塞は約4割少ないことがわかった。
 この理由としては、アルコールの作用で善玉コレステロールであるHDLの血中濃度が上がること、血液が固まりにくくなることがあげられる。
 ただし、1日1合未満の飲酒が脳梗塞にかかりにくいからといって、お酒を飲まない人に飲酒をすすめることを示すものではない。

 
●他の研究事例
 

○東フィンランド大学の研究
 
・中年期の2,609人が参加した研究で、その後追跡調査が20年間にわたって行われている。
 
・研究では、"週当たり2回以上アルコール摂取をする"人のリスクが、"全くアルコール摂取をしない"人に比べて、脳卒中による死亡リスクが3倍高い事が明らかにされた。
 また、この脳卒中による死亡リスクはアルコール摂取量とは独立して増加していることもわかった。
 
※参考文献
The frequency of alcohol consumption is associated with the stroke mortality.

飲酒とがんとの関連

●アルコールとがんとの関連
 
・発がん物質が体内に取り込まれやすくする作用や、アセトアルデヒドによる影響、薬物代謝酵素への影響、エストロゲン代謝への影響、免疫抑制、栄養不足等によるメカニズムが考えられる。
 
・飲酒頻度や飲料の種類よりも、エタノール摂取量との関連が強いと考えられている。
 
・アルコールの通過経路である口腔、咽頭、食道等の上部消化管のがん、体内に吸収されたアルコールの分解を担う肝臓のがん、ホルモンと密接な関連を持つ乳房のがんのリスクをあげることが、”確実”とされている。
 
●国際評価
 
・口腔、咽頭、喉頭、食道、大腸(男性)、乳房のがんのリスクを上げることが”確実”。
・肝臓、大腸(女性)のがんのリスクを上げることも”ほぼ確実”。
・刊行論文のメタ解析と、世界疾病負担研究との結果より、飲酒が非感染性疾患死亡に寄与する割合は3.4%と試算。
 特にがん、高血圧・出血性脳卒中・心房細動を含む心疾患、脂肪肝・アルコール性肝炎・肝硬変などの肝疾患、膵炎では関連が強く見られる。
 
●日本人を対象とした研究
 
・飲酒によりがん全体のリスクが上がることは”確実”と評価。
 部位別には、肝臓、大腸、食道のがんにおいてその影響が”確実”。
 
・飲む場合は1日あたりアルコール量に換算して約23g程度(日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウィスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度)、週150g程度の量にとどめるのがよい。
 適量の飲酒が心筋梗塞や脳梗塞を予防する効果もあるので、1日平均23g以下にとどめるのが重要。
 
・飲酒が全がん罹患、死亡の原因として寄与する割合はそれぞれ男性で9%, 8.6%、女性で2.5%, 2.5%と試算されていて、男女共に喫煙・感染に次いで寄与の高い要因であることが示された。
 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

飲酒とがん死亡率との関係について:たばこの影響
 
・がんの中でも、口腔・喉頭・咽頭・食道など、飲んだお酒が最初に通過する部位のがんや、胃から体に吸収されたアルコールを分解する働きをする肝臓に発生するがんなどが、飲酒が原因でできやすくなると言われている。これらのがんを、"飲酒関連がん"と呼ぶ。同時に、たばこを吸う人と吸わない人では、がんに対する飲酒の影響に差があるのではないかと考えられてきた。
 今回の調査では、飲酒の程度により6つのグループに分けて、喫煙の有無別にがん死亡率を比べてみた。
 
○結果
・飲酒関連がんの死亡率は、お酒を時々飲む人(月に1~3日程度)と比べて、2日に1合程度以上の飲酒習慣がある人のほうが高くなった。飲酒量が増えるとより高くなる傾向にもあった。
・"飲酒関連がん"以外のがんでは、たばこを吸う人と吸わない人とで、結果が違っていて、たばこを吸わない人では、飲酒量が増えても、これらのがんの死亡率は高くならなかった。
 ところが、たばこを吸う人では、飲酒量が増えれば増えるほど、がん死亡率も高くなるという結果だった。ときどき飲む人と比べて、毎日2合程度の人では2.7倍、毎日4合程度の人では3.6倍も、死亡率が高くなった。
・喫煙者でだけ、"飲酒関連がん"ではないはずのがんの死亡率が、飲酒により高くなることについてはまだよく分かっていないが、一つの可能性として、アルコールを分解する酵素が、たばこの煙に含まれる発がん物質も、同時に活性化してしまっているのかもしれない。
 
○飲まない人について
・今回の調査では、ときどき飲む人よりも、飲まない人の方が、がん死亡率が高くなっていた。
 この結果は、ときどき飲むことががんの予防につながったためという可能性もある。けれども、より可能性が高いのは、お酒を飲まない人のグループの中に、昔は飲んでいたけれども健康を害して止めた人や、もともと身体が悪くて飲めない人などが含まれているからだと思われる。

 

飲酒とがん全体の発生率との関係について
 
・飲酒の程度により6つのグループに分けて、その後のがん全体の発生率を比較してみた。
 
○全体の結果
・時々飲酒しているグループと比べると、男性では、アルコール摂取量が日本酒にして1日平均2合未満のグループでは、がん全体の発生率は高くならなかった。
 一方、飲酒の量が1日平均2合以上3合未満のグループでは、がん全体の発生率が1.4倍、1日平均3合以上のグループでは、1.6倍だった。
・女性では、定期的に飲酒する人が多くないためか、はっきりした傾向がみられなかった。
 
○喫煙の有無を考慮した結果
・たばこを吸わない人では、飲酒量が増えても、がんの発生率は高くならなかった。
・たばこを吸う人では、飲酒量が増えれば増えるほど、がんの発生率が高くなり、ときどき飲むグループと比べて、1日平均2-3合以上のグループでは1.9倍、1日平均3合以上のグループでは2.3倍がん全体の発生率が高くなった。
 このことから、飲酒によるがん全体の発生率への影響は、喫煙によって助長されることがわかる。
・口唇・口腔・咽頭・食道・肝・喉頭など、飲酒と特によく関連していると考えられているがんだけでみてみると、喫煙していなくても飲酒量が増えればがんの発生率が高くなるが、喫煙が重なることにより、さらに発生率が高くなるという結果になった。
 
○飲酒と喫煙の併用が悪化させる理由
・アセトアルデヒドががんの発生にかかわると考えられている。
 そして、喫煙者では、エタノールをアセトアルデヒドに分解する酵素が、たばこの煙の中に含まれる発がん物質を同時に活性化してしまっているとも考えられている。

 

たばこ・お酒と胃がんの関連について
 
・アンケートの回答とその後10年間の追跡調査に基づいて、たばこ・お酒と胃がんの発生との関係を男性について調べた。
 
○お酒との関連の結果
・胃全体のがんとお酒は関連がなかったが、お酒を飲むと2倍から3倍噴門部(上のほう)の胃がん(全体の13%を占めていた)になりやすい傾向がうかがえた。
・お酒は口腔、喉頭、食道といった上部消化管のがんを起こしやすいことはよく知られている。胃の中でも、もっとも上部に位置する噴門部がんに限っては発生率を上げると思われる。

 

お酒・たばこと大腸がんの関連について
 
・お酒・たばこと大腸がんの発生との関係について調べた。
 
○お酒に対する結果
・男性では、アルコール摂取量が日本酒にして1日平均1合以上2合未満の人は、飲酒しない人に比べて、大腸がんの発生率が1.4倍、1日平均2合以上の人は、2.1倍だった。
・女性では、週1日以上飲酒する人でも、飲酒しない人に比べて、発生率は上昇しなかった。これは、1日平均1合以上飲酒する人がほとんどいないためで、大量飲酒すれば男性の結果と同様であると考えられる。
 
○お酒が悪いわけ
・アセトアルデヒドががんの発生にかかわると考えられる。
 さらに、アセトアルデヒドが分解される際に出る活性酸素によって、細胞の中の核酸(DNA)を作るのに必要な葉酸という物質が壊されてしまう。
 これによってDNAの合成や傷ついたDNAの修復がうまく行かず、がんになるとも考えられている。

 

飲酒と食道がんの発生率との関係について
 
・飲酒と食道がんの発生率との関係について調べた。
 飲酒習慣の項目についての回答を基にして、"飲まない(月に1回未満)"グループ、"時々飲む(月に1-3回)"グループ、さらにそれ以上飲むグループをアルコール量によって3つのグループに分け、合計5つの飲酒状況グループでその後の食道がんの発生率を比較してみた。
 喫煙習慣については、"吸っている(現在喫煙者)"、"吸っていたが止めた(過去喫煙者)"、"吸ったことがない(非喫煙者)"に分け、さらに現在喫煙者について、喫煙指数(箱・年)によって20未満、20-29、30-39、40以上の4つのグループに分けた。
 また、お酒で顔が赤くなる体質については、"お酒を飲むとすぐに顔が赤くなりますか"という問いに対し、"そうである(なる)"、"どちらかといえばそうである"と回答した方を"あり"、"変わらない(ならない)"を"なし"にグループ分けした。
 
○結果
・飲酒については、飲まないグループに比べ、1日当たり日本酒にして1合以上から食道がんのリスクが上がり、1合から2合のグループで2.6倍、2合以上のグループで4.6倍高くなっていた。
・喫煙については、過去喫煙者(3.3倍)と現在喫煙者(3.7倍)では非喫煙者に比べリスクが高く、しかも現在喫煙者では喫煙指数が高ければ高いほどリスクが上昇する傾向が確認された。
・お酒で顔が赤くなる体質でもならない体質でも、飲酒による食道がんリスクへの影響は見られなかった。ただし、喫煙指数20以上のヘビースモーカーでは影響が現れ、1日当たり2合以上の大量飲酒グループで顔が赤くなる体質の食道がんのリスクが、2合未満で顔が赤くならない体質に比べ3.4倍高くなっていた。

 

飲酒と乳がん罹患との関係について
 
・アンケート調査への回答から、対象者を"過去に飲んでいた"、"飲んだことがない"、"時々飲む(月に1-3日)"、"週にエタノール換算で150g以下の飲酒"、"週にエタノール換算で150gより多い飲酒"の5つのグループに分けて、乳がんの発生率を比べてみた。
 
○結果
・飲酒量が多い、つまり"エタノ-ル換算で週150gより多く飲酒"するグル-プでは、"飲んだことがない"グル-プに比べて、乳がんリスクが1.75倍(約75%)高いことがわかった。
・対象者を閉経前と閉経後に分けて調べたところ、閉経前では、飲んだことのないグループと比べて、飲酒量の最も多いグループで1.78倍の乳がんリスク上昇が統計的有意に認められた。
 閉経後では、グループごとのリスクの高さは明確ではなかったが、飲酒量が増えるにつれて統計学的に有意なリスク上昇の傾向が認められた。
 
○アルコール摂取で乳がんリスクが上昇する理由
・飲酒と乳がんリスクの関連は、動物実験や、主に欧米の疫学研究で、すでに数多く発表され、国際的な評価では飲酒が乳がんリスクを高めるのは確実とされている。
・生物学的機序として、お酒に含まれているエタノールが分解されてできるアセトアルデヒドがもつ発がん性、アセトアルデヒドによるDNA合成・修復に必要とされている葉酸の破壊、また、アルコールによる乳がんリスク要因である女性ホルモンなどへ影響、などの可能性があげられるが、はっきりとわかっておらず今後の研究が必要とされている。

 

飲酒・喫煙と前立腺がんとの関連について
 
・アンケート調査で、飲酒習慣の項目についての回答を基にして、"飲まない(月に1回未満)"グループ、"時々飲む(月に1-3回)"グループ、さらにそれ以上飲むグループをアルコール量によって3つのグループに分けた。喫煙については、"吸わない"グループ、"やめた"グループ、さらに"吸う"グループを喫煙本数×年数によって、3つのグループに分けた。それぞれ、合計5つの飲酒/喫煙状況グループでその後の前立腺がんの発生率を比較した。
 
○飲酒との関連の結果
・飲酒と全ての前立腺がんには関連がなかったが、限局がんと進行がんに分けて、飲酒によるリスクを比べたところ、飲まないグループと比べ、アルコール摂取量が多いグループで進行前立腺がんのリスクが高くなった。飲まないグル―プと比べ、週当たりの摂取量がエタノール換算150g以上グループのリスクが1.51倍と高くなった。限局前立腺がんでは、飲酒との関連はみられなかった。
 
○飲酒が前立腺がんのリスクになるメカニズム
・飲酒が前立腺がんのリスクになるメカニズムとして、お酒に含まれているエタノールが分解されてできるアセトアルデヒドがもつ発がん性や、アルコールによる前立腺がんリスク要因である性ホルモンなどへ影響、などの可能性があげられる。

 

喫煙、飲酒と口腔・咽頭がん罹患リスクについて
 
・喫煙・飲酒と口腔・咽頭がん発生リスクとの関連を調べた。
 
○結果
・男性ではお酒を飲まないグループ(非飲酒者)に比べ、週に1回以上飲酒するグループ(日常飲酒者)では口腔咽頭がんの罹患リスクは1.8倍増加した。
 エタノール摂取量に換算して週に300グラム以上(1日平均4合以上)お酒を飲むグループでは罹患リスクは3.2倍増加した。
・女性ではお酒を飲まないグループとくらべて、週にエタノール150グラム以上を飲酒する女性グループでは口腔・咽頭がん罹患リスクは5.9倍と、統計学的に有意な増加がみられた。

 
 
●他の研究事例
 

○米国ハーバード大学の研究報告
 
・米国の大規模コホート研究の、88,084名の女性と47,881名の男性の30年以上にわたる追跡データから、アルコールに関連するがんとして、大腸がん、女性の乳がん、肝がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がんのリスクと飲酒の関連性をみた。
・軽度から中程度の飲酒は、女性なら15gのアルコール、男性なら30gのアルコール摂取をさす。女性ならビール1缶、男性なら2缶程度である。
 
・全体的にみて、軽度から中程度の飲酒は、全てがんのリスクはほとんど高めないようだが、女性の場合、軽度から中程度の飲酒は、アルコールに関連するがん、主として乳がんのリスクを高めた。
・アルコール関連のがんについては、男性の場合は喫煙経験者のみにリスクの上昇が認められた。
 
※参考文献
Light to moderate intake of alcohol, drinking patterns, and risk of cancer: results from two prospective US cohort studies.

飲酒と認知症との関連

○認知症、オランダの研究報告
 
・ロッテルダムStudyに参加していた55歳以上の約8,000人を約6年間追跡調査。
・適度のお酒を飲んでいる人は、お酒を飲まない人と比べて認知症発症のハザード比が0.58と発症リスクが低かった。
 
※参考文献
Alcohol consumption and risk of dementia: the Rotterdam Study.

飲酒と骨粗しょう症との関連

・アルコールを摂取すると、カルシウムの吸収が低下し、ビタミンDを活性型に変換するのを促す肝酵素が阻害され、カルシウムの状態に影響が生じることがある。
 
・女性、痩身、非活動的、高齢、喫煙、アルコールの過剰摂取、骨粗鬆症の家族歴などのさまざまな要因によって骨粗鬆症の発現リスクが増大する。
 
※参考情報
カルシウム | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業

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