n-3系脂肪酸(DHA、EPAなど)摂取と慢性疾患との関連

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  1. n-3系脂肪酸の概要
  2. n-3系不飽和脂肪酸の目安量
  3. コレステロール値との関連
  4. 高血圧との関連
  5. 循環器疾患との関連
  6. 血糖値との関連
  7. がんとの関連
  8. 認知症との関連
  9. うつ病との関連

n-3系脂肪酸の概要

・n-3系脂肪酸には、食用調理油由来のα-リノレン酸(18:3n-3)と魚由来のEPA(20:5n-3)、DPA(22:5n-3)、DHA(22:6n-3)などがある。
 体内に入ったα-リノレン酸は一部EPAやDHAに変換される。
・生体内で合成できず、欠乏すると皮膚炎などが発症する。

・多価不飽和脂肪酸のひとつで、魚の油に多く含まれるIPA(イコサペンタエン酸、EPAともいう)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が代表的で、えごま油やなたね油などに含まれるα-リノレン酸もこの仲間。
・α-リノレン酸は体内で合成できない脂肪酸で、体内でIPA、さらにDHAへと変化する。
・細胞膜や体の仕組みに働きかける生理活性物質の材料となる物質。
 
※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール  日本経済新聞出版社』

n-3系不飽和脂肪酸の目安量

※%E(エネルギー比率) 総エネルギー摂取量に占める割合
 
・魚によっては水銀、ダイオキシンなどの環境汚染物質が含まれていることや世界的な魚資源の不足により、将来、α-リノレン酸の摂取が重要になる可能性がある。
 
・平成22年、23年国民健康・栄養調査の結果に基づく、n-3系脂肪酸の日本人30~49歳の中央値は、2.1g/日(男性)、1.6g/日(女性)で、エネルギー比率では0.89%E(男性)、0.86%E(女性)となる。
 上記値を参考にして、目安量として約1%Eとしている。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 

・青魚などからのEPAやDHAの摂取は、日常の摂取量の範囲では多く摂取しても有害な作用があるとは考えられていないが、水銀やカドミウム、ダイオキシンなどの有害物質も含まれていることから、極端な摂取は好ましくないと考えられる。
 
・子供の場合、n-3系脂肪酸が不足すると皮膚炎等の欠乏症が見られるため、目標量ではなく目安量が定められている。
 
※農林水産省/脂質による健康影響

コレステロール値との関連

・肝臓でのLDL合成を抑え、HDLの合成を高める作用がある。
・不飽和結合を多く持つのでLDLが酸化されやすくなる。
 
※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール  日本経済新聞出版社』

 

●脂肪とHDL
 
・介入試験をまとめたメタ・アナリシスによれば、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸全てがHDLを有意に上昇させることが示されているが、その変化量は僅かである。
 
●多価不飽和脂肪酸とLDL
 
・27の介入試験(総対象者数は682人、介入期間は14~91日間)をまとめたメタ・アナリシスによれば、総エネルギー摂取量の5%を炭水化物から多価不飽和脂肪酸に食べ替えると平均として2.8mg/dLの血清LDL濃度の減少が観察されている。
 研究数を増やした別のメタ・アナリシスでもほぼ同様の結果が得られている。
 
●α-リノレン酸(n-3系)とHDL、LDL
 
・n-3系のα-リノレン酸をサプリメントとして付加して血清脂質の変化を観察した17の介入試験をまとめたメタ・アナリシスでは、HDL濃度が有意に低下したが、LDL濃度には有意な変化は認められなかった。しかし、この研究では摂取量は報告されていない。
 
●魚類由来長鎖n-3系脂肪酸(EPA 又はDHA)とLDL
 
・サプリメントとして付加して血清脂質の変化を観察した47の介入試験をまとめたメタ・アナリシス(インドで行われた二つの研究を除いて全て欧米諸国で行われた研究、脂質異常症で糖尿病、心筋梗塞の既往など心血管系疾患リスクを有する成人男女を対象)では、LDL濃度は有意な上昇を示している。
 しかし、この研究における摂取量の平均値は3.25g/日と、通常の食品からの摂取量としてはかなり多く、一方で、LDL濃度の上昇は平均2.3mg/dLと小さく、現実的な意味は乏しいと考えられる。
 糖尿病患者を対象とした類似の研究をまとめたメタ・アナリシスでもほぼ類似の結果が報告されている。
 
●EPA、DHAとHDL
 
・EPAやDHAを含んだサプリメント投与研究のメタ・アナリシスで、DHAはHDLを増加させるが、EPAは増加させないことが示されている。
 しかし、低HDLコレステロール血症患者にDHAを投与して、心筋梗塞罹患が減少するとの報告はない。その理由の一つに、DHA投与によりLDLが増加することが考えられる。
 
●魚類由来長鎖n-3系脂肪酸と中性脂肪値
 
・魚類由来長鎖n-3系脂肪酸をサプリメントとして負荷して血清脂質の変化を観察した47の介入試験をまとめたメタ・アナリシスでは、血清中性脂肪濃度は有意な減少を示している。
 この研究における摂取量の平均値は3.25g/日と、通常の食品からの摂取量としてはかなり多いものの、血清中性脂肪濃度の低下は平均30mg/dLであり、現実的にある程度意味のある低下量であるかもしれない。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

高血圧との関連

○降圧作用
 
・魚油由来のn-3系脂肪酸は軽度の降圧作用の報告があり、高血圧患者では積極的摂取が推奨される。
 
・INTERMAPに基づく報告などの多くの観察研究でn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多い人は血圧が低いことが示されている。
 
・EPA、DHA、DPAの総和の血中レベルが高い人は血圧が低いという報告もある。
 
・介入研究でも魚油の降圧効果が報告されている。例えば、平均年齢60歳の正常高値血圧の高中性脂肪血症患者に85%以上のEPAとDHA(比率は0.9:1.5)を含む多価不飽和脂肪酸2g/日を12か月投与すると、収縮期/拡張期血圧が-2.7/-1.3mmHg低下するという報告がある。
 
・介入試験のメタ・アナリシスでは中央値3.7g/日の魚油の投与で有意の降圧を認めた。特に、45歳以上、収縮期/拡張期血圧が140/90mmHg以上の人で、その効果は顕著であった。
 
○降圧効果に必要な魚油摂取量
 
・有意の降圧効果を発揮するには3g/日以上の大量の魚油の摂取が必要であり、魚油のみでの降圧は困難と考えられ、他の食事性因子との組合せも留意する必要がある。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

循環器疾患との関連

●n-3系脂肪酸と死亡リスク
 
○2013年4月、米国医師会の"内科年報"に発表。ハーバード公衆衛生大学院
・アメリカ在住の健康な65歳以上の約2700人を対象(平均74歳)。92年から16年に渡って追跡調査。
・n-3系脂肪酸の血中濃度が高かった人は低い人に比べ、すべての死亡リスクが27%低く、平均2.2歳長生きしていた。
・DHAの血中濃度が高い人は冠動脈に関連する死亡リスクが約40%低下。
 
※参考資料『松井宏夫(2016)長生きできる人とできない人の習慣 日刊スポーツ連載』

 

○心血管病リスク改善作用
 
・n-3系脂肪酸には、脈波伝導速度(PWV)や動脈コンプライアンスの改善効果、血流依存性血管拡張反応改善効果についてメタ・アナリシスで報告されている。
 また、脈拍数と赤血球中のEPAやDHA比率と負の関連が報告されていて、これらの機序により、血圧が低下すると考えられる。
 これらの成績は、降圧メカニズムを示唆するのみでなく、心血管病リスク改善作用を期待させるものである。
 実際、日本における一般集団を対象にしたJPHC研究で、魚の摂取量が多い人ほど心筋梗塞発症が少ないことが報告されている。
 
・疫学研究で心不全リスクの低下効果(JACC研究)、脳卒中リスク改善効果も示されている。
 
・しかし、欧米のn-3系脂肪酸の介入試験では心血管病リスク改善効果を証明できなかったものも少なくない(ORIGIN研究、Risk and Prevention研究)。いずれもn-3系脂肪酸1g/日をオリーブ油約1g/日を対象として比較している。
 
・最近報告されたn-3系脂肪酸の心血管病二次予防に関するメタ・アナリシスでも、有効性を示すことはできなかった。
 
・これに対して、スタチン製剤を投与中の高コレステロール血症患者に高純度EPA製剤(1,800mg/日)の効果を見た日本における介入試験であるJELIS研究では、EPA投与群は冠動脈疾患罹患率の減少、脳卒中再発の減少を認めた。
 
・ORIGIN研究、Risk and Prevention研究とJELIS研究はn-3系脂肪酸の種類・量などに加えて、対象者の特徴、対照治療群の設定も異なるので、n-3系脂肪酸の心血管病リスクに対する作用については更なる検討が必要である。
 
○α-リノレン酸
 
・2012年に発表された観察研究のメタ・アナリシスでは、α-リノレン酸摂取量と心血管疾患罹患(脳卒中も含む)との間には弱い負の関連が認められた。
 
○EPA、DHA
 
・あるメタ・アナリシスでは、EPA、DHA摂取群で平均18%の冠動脈疾患罹患の減少、平均9%の心臓死減少を認めたが、他のメタ・アナリシスでは、心血管イベント減少効果は認められなかった。
 効果が見られなくなった原因の一つにスタチンを服用している人が増えて、EPA、DHAの効果が相対的に弱くなったことが考えられている。
 
・2012年の観察研究のメタ・アナリシスでは、週2~4回魚を摂取する群は週1回以下の群に比べて脳卒中リスクは平均6%減少、魚摂取量が最大群で最小群に比べて脳出血罹患は平均19%減少した。
 しかし、塩漬けの魚を食べると、脳出血罹患が2倍増加する報告があるので、魚の調理法には注意が必要。
 一方、介入研究のメタ・アナリシスではEPA、DHA投与により、脳卒中罹患の減少は認められていない。
 
・炎症に関しては、幾つかの介入研究のメタ・アナリシスで、n-3系脂肪酸投与により血中の炎症マーカーや内皮機能が改善されることが示されている。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

魚・n-3脂肪酸摂取と虚血性心疾患発症との関連について
 
・魚・n-3脂肪酸摂取と虚血性心疾患発症との関連を調べた。
 
○結果
・魚の摂取量が最も少ない1日約20gのグループに比べ、その他のグループではいずれもリスクが下がり、最も多いグループでは40%低くなった。
・虚血性心疾患リスクを、EPAとDHAの摂取量によって5つのグループに分けて比較した結果、摂取量が最も多いグループの虚血性心疾患のリスクは、最も摂取量が少ないグループよりも約40%低いことがわかった。
 
○推察
・これまでも、少し(週1~2回、または1日あたり30~60g)でも魚を食べることが虚血性心疾患の予防につながるという、海外の研究からの報告がいくつかあった。しかし、それ以上の魚の摂取がさらなるリスクの低下につながるかどうかはわかっていなかった。
 今回の研究では、魚の摂取量が最も多いグループ(中央値180g、週に8回ペース)でも、虚血性心疾患のリスクが低下した。このことから、魚による虚血性心疾患予防効果は、週1~2回程度でも期待できるけれども、それ以上に食べるとさらに高くなることがわかった。
 
○注意点
・この研究では、結果に影響すると考えられる他の要因や質問票の測定誤差の影響をできる限り小さくするように努めてはいるが、魚を多く摂取したと答えた人たちが健康的な生活習慣を持っていたために、魚が予防的にみえてしまっている可能性が残る。
・脂肪酸の働きについては、魚に含まれる他の予防因子が効いている可能性もあり、さらなる研究が必要。
・EPAやDHAについては、魚の成分としての摂取量であり、サプリメントの摂取による予防効果は検討していない。

 

血中n-3系多価不飽和脂肪酸と虚血性心疾患との関連について
 
・保存血液を用いて、血中n-3系多価不飽和脂肪酸と虚血性心疾患との関連を調べた。
 
○結果
・虚血性心疾患全体では、n-3系脂肪酸と発症リスクの関連は認められなかった。
・非致死性の虚血性心疾患についても同様にn-3系脂肪酸との関連は認められなかった。
・致死性の虚血性心疾患については、n-3系脂肪酸濃度が一番低い群に比べ、一番高い群において、88%の発症リスク低下が認められた。
 
○推察
・JPHC Studyの"魚摂取と虚血性心疾患における研究"では、食事調査アンケートから算出したn-3系脂肪酸摂取量と非致死性の虚血性心疾患で発症リスクの低下が認められ、致死性の虚血性心疾患との関連は認められかった。
 この違いは、本研究では血液提供者のみを対象としており、女性が多く、また、喫煙者が少ないといった健康意識の高い人が多かった可能性などが理由として考えられる。
・今回の研究では、致死性の虚血性心疾患の症例数が少ないため、結果が偶然に得られた可能性も否定できない。

 
 
●他の研究事例
 

・カナダ、オンタリオ州のマクマスター大学の研究者らが主体となって行った。過去に心臓発作、脳卒中、その他の心臓疾患を患ったことのある高血糖か糖尿病の患者1万2536人を追跡。
 オメガ3脂肪酸(DHA・EPA)を含む魚油を摂取したグループとプラセボ摂取グループで、心疾患、脳卒中などで効果が認められなかった。
 
※参考資料『デイビッド・B.エイガス(2013)ジエンド・オブ・イルネス 日経BP社』

血糖値との関連

・最近のメタ・アナリシスでは、多価不飽和脂肪酸の摂取量の増加は、HbA1cの低下をもたらすとしており、今後の課題は、総摂取量のみならず、脂肪酸組成にあると言える。
 
・これまでの、n-3系脂肪酸の摂取量と糖尿病発症リスクについての研究は、必ずしも一致した結果に至っていない。
 中国人を対象にした前向きコホート研究では、EPA、DHA摂取量は糖尿病発症リスクに関与しなかったが、α-リノレン酸はリスクを低下させること、女性において魚介類の長鎖n-3系脂肪酸は糖尿病発症リスクを低減することが報告されている。
 一方、アメリカの調査では、n-3系脂肪酸を0.2g/日以上、魚を1日2回以上食べる女性は糖尿病発症リスクが増大すること、オランダでの前向きコホート研究では、糖尿病発症リスクに関してEPA、DHA摂取量は関係がなかったとも報告されている。
 メタ・アナリシスの結果でも、インスリン感受性の改善はない、あるいは糖尿病発症リスクに対する効果を否定するものがある反面、アジア人では魚由来n-3系脂肪酸は糖尿病発症リスクを低減するとするものもあり、効果に人種差がある可能性を示唆している。
 2型糖尿病症例にEPAとDHAを投与し、心血管疾患の発症率を検討したアメリカの研究では、プラセボ群との間に全く差異は認められなかった。
 
・JPHC研究で、男性において、小型の魚(さば、さんま、いわし、うなぎ)を多く摂取する群で、糖尿病罹患リスクの低下が認められている。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

魚介類摂取と糖尿病との関連について
 
・魚に豊富に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸は、循環器疾患に対して予防的に働くことが知られている。
 糖代謝に関しては、インスリン分泌やインスリン抵抗性がn-3系脂肪酸の投与によって改善するという実験研究があり、魚の摂取による糖尿病のリスク低下が期待される。その一方、魚に蓄積した水銀やダイオキシンなどの環境汚染物質による糖代謝への悪影響も懸念されている。
 本研究では、魚介類摂取と糖尿病発症との関連を調べた。
 
○結果
・男性では魚介類摂取が多いほど糖尿病発症のリスクが低下する傾向が認められ、摂取量が最も少ない群に比べ最も多い群では糖尿病のリスクが約3割低下していた。
 一方、女性では魚介類摂取と糖尿病発症との関連はみられなかった。
・男性において、魚を大きさにより分けて分析したところ、小・中型魚(あじ・いわし、さんま・さば、うなぎ)の摂取は糖尿病のリスク低下と関連していたが、大型魚(さけ・ます、かつお・まぐろ、たら・かれい、たい類)の摂取は糖尿病リスクとの関連はみられなかった。
 また、魚を脂の量で分けた場合、脂の多い魚(さけ・ます、あじ・いわし、さんま・さば、うなぎ、たい類)の摂取により糖尿病のリスクは低下する傾向がみられたが、脂の少ない魚(かつお・まぐろ、たら・かれい)では関連はみられなかった。
・魚以外の魚介類(いか、たこ、えび、貝類)、塩魚・干物、水産加工品の摂取と糖尿病発症との関連はみられなかった。
 
○推察
・男性において効果が見られた理由として、魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸やビタミンDのインスリン感受性やインスリン分泌に対する好ましい効果が考えられる。
・女性で関連がみられなかったことについて、はっきりとした理由は分からないが、女性は体脂肪が多いため脂溶性の環境汚染物質の影響を受けやすいのかもしれない。

がんとの関連

・乳がんコホート研究のメタ・アナリシスで、EPA、DHA摂取量との間に負の関連が認められている。
 
・結腸直腸がんコホート研究のメタ・アナリシスでは男性において、n-3系脂肪酸(α-リノレン酸を含む)摂取量が多い群で平均13%のリスク減少が認められている。
 
・JPHC研究で魚由来n-3系脂肪酸摂取量用量依存性に、肝がん罹患が減少することを認めている。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸摂取量と乳がんとの関連について
 
・アンケート結果に基づいた魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸の摂取量を4つのグループに分け、グループ間での乳がん罹患リスクを比較した。
 
○全体の結果
・魚、n-3(EPA, DHA, DPA, ALA を含む)及びn-6不飽和脂肪酸の摂取量と乳がん全体のリスクとの関連はみられなかった。
 
○ホルモン受容体の有無別の結果
・乳がんのリスクは、乳がん組織がホルモン依存性(ホルモン受容体陽性)か否かによって異なることが指摘されている。ホルモン受容体の有無別にみると以下の傾向があった。
・n-6不飽和脂肪酸の摂取量が最も少ないグループに比べ、最も高いグループにおいては、ホルモン受容体陽性(エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陽性)乳がんのリスクが2.94倍高くなった。
・EPA、DHA、DPAについては、摂取量が多い群においてホルモン受容体陽性乳がんリスクが低い傾向がみられた。

 

魚介類、n-3多価不飽和脂肪酸摂取と膵がん罹患との関連について
 
・対象者をアンケート調査結果から算出した魚介類(さけ・ます、かつお・まぐろ、あじ・いわし、しらす、タラコといった魚卵、ウナギ、イカ、タコ、エビ、アサリ・シジミといった貝類、かまぼこといった加工食品、干物、など19質問項目を使用)、n-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)摂取量で4つのグループに分け、最も摂取量が少ないグループに比べ、その他のグループで膵がんのリスクが何倍になるのかを調べた。
 α-リノレン酸(ALA)はn-3 PUFAの成分の一つだが主に野菜などの種に多く含まれるため、魚介類に多く含まれるn-3 PUFAとして、EPA、DPA、DHAの総量(以下、魚介類由来n-3 PUFA)を用いた検討も行った。
 
○結果
・魚介類由来n-3 PUFA(EPA+DPA+DHA)、DDHAそれぞれ摂取量最小グループに比べて最大グループで約30%統計学的有意に膵がん罹患リスクの低下を認めた。
 また、EPA、DPAについても、最小グループに比べ、最大グループで膵がん罹患リスクが低下する傾向が見られた。
 
○推察
・膵がん発生には慢性の炎症が関与していると報告されている。また、魚介類由来n-3 PUFAは抗炎症、免疫調節作用を有すると報告されている。
 メカニズムの点から考えると、魚介類由来n-3 PUFAを多く摂取することにより、膵がん発生に関与する慢性炎症の影響が軽減しているのかもしれない。

 

n-3およびn-6不飽和脂肪酸摂取と大腸がんとの関連について
 
・アンケートから計算されたn-3、n-6、およびそれぞれ個別の不飽和脂肪酸摂取量によって、5つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで大腸がんのリスクが何倍になるかを調べた。
 
○n-3系脂肪酸
・魚由来のn-3不飽和脂肪酸およびトータルのn-3不飽和脂肪酸を多くとっているグループほど、結腸(特に近位部)のがんの発生リスクが低いことが分かった。
・直腸のがんに対しては、n-3不飽和脂肪酸は特に有意な関連を示さなかった。

 

魚、n-3不飽和脂肪酸摂取量と肝がんとの関連について
 
・アンケートから計算されたn-3およびそれぞれ個別の不飽和脂肪酸摂取量によって、5つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで肝がんのリスクが何倍になるかを調べた。
 
○結果
・n-3不飽和脂肪酸を多く含む魚、および、EPA, DPA, DHAといった魚に多く含まれているn-3不飽和脂肪酸を多くとっているグループほど、肝がんの発生リスクが低いことがわかった。
 
○推察
・n-3不飽和脂肪酸には抗炎症作用があることが報告されているが、肝がんになる人の多くは、B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎を経て発症するので、n-3不飽和脂肪酸は慢性肝炎への抗炎症作用をとおして肝がんの発症をおさえるのかもしれない。
・n-3不飽和脂肪酸にはインスリン抵抗性を改善する作用があることも報告されている。近年、多くの疫学研究で、糖尿病や肥満が肝がんのリスクをあげることが報告されていることから、インスリン抵抗性は肝がんのリスクと考えられている。肝がんリスクの低下は、抗炎症作用に加えて、n-3不飽和脂肪酸によるインスリン抵抗性の改善によるのかもしれない。

 
●他の研究事例
 

○先行研究のオメガ-3系脂肪酸に対する評価
 
・ずっと以前からオメガ-3系脂肪酸が炎症を抑え、糖尿病に抗する力を持つことが知られている。
・2013年の研究では、血中のオメガ-3系脂肪酸濃度の高い男性は前立腺がんのリスクが高まることが示唆されていたが、この血中オメガ-3系脂肪酸の由来が魚介類なのかナッツ類なのかあるいはサプリメントなのかは不明だった。
 
○米国ワシントン州立大学からの研究報告
 
・培養前立腺がん細胞を用いて、FFA4(遊離脂肪酸受容体4)と呼ばれる受容体にこの脂肪酸が結合することを発見した。がん細胞を刺激するというよりは、受容体を通じて信号を送り成長因子を阻害して細胞の増殖を抑制していると考えている。
 
※参考文献
Omega-3 fatty acids and other FFA4 agonists inhibit growth factor signaling in human prostate cancer cells.

 

○中国・浙江省がん病院からのメタ分析の結果報告
 
・7件のコホート研究と10件の症例対照研究を対象にメタ分析を行い、肝がんのリスクを評価。
 
・摂取量の多寡に応じてカテゴリ分けし最も高い群を最も低い群と比較した結果、赤肉の摂取の相対リスクは1.10、加工肉および総肉摂取量の相対リスクは1.01だった。
 白肉および魚の摂取はリスクを低下させ、白肉の相対リスクは0.69であり、魚の相対リスクは0.78であった。
 
※参考文献
Systematic review with meta-analysis: meat consumption and the risk of hepatocellular carcinoma.

 

○以前の研究
 
・オメガ3脂肪酸は、腫瘍増殖を抑制し、悪性細胞への血液供給を抑制できることが示されている。
 
○米国ハーバード・メディカル・スクールなどからの研究報告
 
・2つの大規模長期試験に基づくもので、参加者は、調査に参加した時点での病歴や生活様式の因子について、詳細な質問票に回答し、その後、隔年でこれを繰り返した。
・質問票には、大腸がんの診断結果や他の潜在的影響因子として、身長、体重、喫煙状態、アスピリンや非ステロイド性炎症薬の常用、運動に関する情報が含まれていた。
 
・その結果、魚由来のオメガ3が多めの食事を摂っていた人は、大腸がんによる死亡リスクが低下していた。リスク低下の程度は、摂取量が増えるとリスクが下がるといった関連がみられ、摂取量に関連しているようであった。
 
※参考文献
Marine ω-3 polyunsaturated fatty acid intake and survival after colorectal cancer diagnosis.

認知症との関連

・オリーブオイルやアマニ油、クルミ油などオメガ3脂肪酸を豊富に含む油を日常的に食べている人、魚を食べている人は認知症にかかりにくかった。
 
※参考資料『デイビッド・パールマター(2015)「いつものパン」があなたを殺す  三笠書房』

 

●アルツハイマー病によい食事
 
・青魚を週に2回食べる事によってアルツハイマー病になる確率が41%下がったという報告がある。
・n-3系脂肪酸には、血栓ができることを防ぎ、炎症を抑え、神経細胞を大きくして、神経細胞間のつながりを良くする働きがある。
・βアミロイドの沈着を防ぎ、神経にからみつく神経原線維を除去する効果がある。
 
※参考資料『森下竜一,桐山秀樹(2015)アルツハイマーは脳の糖尿病だった 青春出版社』

 

●前向き観察研究
 
・n-3系脂肪酸の高齢者の認知機能に対する影響に関しては、前向き観察研究ではn-3系脂肪酸摂取量が少ないと認知機能の低下や認知症発症に関与するとの報告が複数存在している。
 一方で関連を認めないとする報告も複数存在し、n-3系脂肪酸摂取量が認知機能低下や認知症、特にアルツハイマー病発症に関連するかどうかは一定の結論には至っていない。
 
●介入研究
 
・認知症ではない60歳以上を対象として最低半年以上の介入期間があるn-3系脂肪酸のランダム化比較試験(RCT)は二つしか存在しておらず、いずれの介入試験も(24か月と48か月)認知機能への影響を認めていない。
 
・既にアルツハイマー病の診断を受けている対象者へのn-3系脂肪酸を用いたRCTも幾つか存在するが、いずれの介入も認知機能の悪化を予防することに成功していない。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 

●ストレス、海馬、DHA
 
・ストレスが重なると脳の海馬が損傷するが、DHAは脳の神経細胞膜の重要な構成成分であると同時に、海馬などで、神経細胞に栄養を与える活動を高めることが分かってきた。
 
※参考資料『NHKスペシャル取材班(2016)キラーストレス NHK出版』

 

●BDNFとDHA
 
・BDNFは脳の成長に重要なタンパク質であり、新しい神経細胞がつくられる過程に関わる。また既存の神経細胞を守り、生存を支え、神経同士の結合(シナプス)を促す。
・BDNFの減少は、アルツハイマー病、癲癇、神経性食欲不振、うつ病、統合失調症と強迫性障害など一連の神経性の症状に見られる。
・BDNFは有酸素運動を行ったり、オメガ3脂肪酸のDHAを摂取したりして増やすことができるが、腸内に棲む細菌のバランスに完全に依存していることがわかってきた。
 
※参考資料『デイビッド・パールマター(2016)「腸の力」であなたは変わる 三笠書房』

 
●他の研究事例
 

○米国ラッシュ大学からの研究報告
 
・魚介類摂取量が脳内水銀濃度の増加と相関しているかどうか、魚介類摂取量や脳内水銀濃度は脳の神経病理と相関しているかどうかを調べた。
・調査参加者の大部分が非ヒスパニック系白人で、死亡時の平均年齢は90歳で、67%が女性であった。
 
・参加者544人のうち286人の脳剖検では、脳内水銀濃度は、週当たりに摂取した魚介類の食事の数と正に相関していた。
・年齢、性別、教育、総エネルギー摂取量について調整したモデルでは、魚介類摂取量(食事一回以上/週)は、アルツハイマー病の病変がより少ないことと有意に相関していた。
 ただし、アポリポたんぱく質E(APOEε4)キャリアに限り、遺伝子変異がアルツハイマー病発症リスクの増加に関連していた。
 
※APOEε4
アポリポ蛋白E(ApoE)の対立遺伝子ε4の頻度が家族性ならびに孤発性アルツハイマー病で著しく高い。ApoE ε4遺伝子と脳内Aβ沈着量に正の相関がある。
 
※参考文献
Association of Seafood Consumption, Brain Mercury Level, and APOE ε4 Status With Brain Neuropathology in Older Adults

 

○ロードアイランド病院による研究
 
・"アルツハイマー病神経イメージング研究イニシアティブ(ADNI)"において、魚油サプリメントの利用と認知機能低下の指標との関係を検討した。
・参加者は、認知的に正常である229名の高齢者、軽度認知障害と診断された397名、アルツハイマー病患者の193名であった。6ヶ月ごとに神経心理学的検査と脳の磁気共鳴画像法(MRI)を受けた。
 
・研究の結果、魚油サプリメントを使用するとアルツハイマー病評価尺度(ADAS-COG)と小精神状態検査(MMSE)で測定した認知機能低下が、有意に抑えられることが示された。
 しかしこの効果が観察されたのは、登録時に認知症のない参加者グループのみであった。
 また、アルツハイマー病の遺伝的危険因子であるアポE-4が無い人でのみ、認知テストおよび脳MRIの結果が良かった。
 
※参考文献
Association of fish oil supplement use with preservation of brain volume and cognitive function. 

うつ病との関連

●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

魚介類・n-3不飽和脂肪酸摂取とうつ病との関連について
 
・対象者をアンケート調査結果から算出した魚介類と、n-3系脂肪酸の摂取量で4つのグループに分け、最も摂取量が少ないグループに比べた時の、その他のグループでのうつ病のリスクを調べた。
 
○結果
・1日に57g魚介類を食べるグループと比較して、1日に111g魚介類を食べるグループでうつ病リスクの低下がみられた。
・n-3系脂肪酸摂取とうつ病との関連では、EPAを1日に200mg摂取するグループと比較して、1日307mg摂取するグループ、また、DPAを1日に67mg摂取するグループと比較して、1日123mg摂取するグループでうつ病リスクの低下がみられた。
 他のn-3系脂肪酸とうつ病との明らかな関連は見られなかった。
・魚介類・n-3系脂肪酸摂取とうつ病には、とればとるほどリスクが下がる、というような関連ではなく、ある量でリスクが下がり、それ以上とると影響がみられなくなることが示された。
 
○推察
・n-3系脂肪酸には抗炎症、免疫調整、神経伝達物質調整、神経保護など多様な作用があり、それらが抗うつ効果を示すのではないかと考えられている。
・複数の研究結果をまとめたメタアナリシスでは、うつ病患者は健常者と比べて血液中のn-3系脂肪酸が低いこと、n-3系脂肪酸サプリメントがうつ病治療に有益であることなどが報告されている。
 また、2016年に報告された、31編の疫学研究をまとめたメタアナリシスでは、1日50gの魚摂取、1.8gのn-3系脂肪酸摂取でうつ病の発症リスクを最も下げることが報告された。

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