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n-6系脂肪酸の概要
・n-6系脂肪酸には、リノール酸(18:2n-6)、γ-リノレン酸(18:3n-6)、アラキドン酸(20:4n-6)などがあり、γ-リノレン酸やアラキドン酸はリノール酸の代謝産物。
・生体内では、n-6系脂肪酸をアセチルCoAから合成することができないので経口摂取する必要がある。
・日本人で摂取されるn-6系脂肪酸の98%はリノール酸。
・生体内では、n-6系脂肪酸をアセチルCoAから合成することができないので経口摂取する必要がある。
・日本人で摂取されるn-6系脂肪酸の98%はリノール酸。
・多価不飽和脂肪酸のひとつで、大豆油やコーン油など一般的な植物油に多く含まれるリノール酸が代表的。 ・リノール酸は体内で合成できない脂肪酸で、体内でγ-リノレン酸、さらにアラキドン酸へと変化する。 ・細胞膜や体の仕組みに働きかける生理活性物質の材料となる物質。 ※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール 日本経済新聞出版社』
・不足すると皮膚炎等の欠乏症が見られるため目安量が定められている。とりすぎた場合の安全性も危惧されている。 ※農林水産省/脂質による健康影響
n-6系不飽和脂肪酸の目安量
※%E(エネルギー比率) 総エネルギー摂取量に占める割合 ・平成22年、23年国民健康・栄養調査の結果に基づく、日本人30~49歳のn-6系脂肪酸摂取量の中央値は、10.0g/日(男性)、8.4g/日(女性)で、エネルギー比率では4.3%E(男性)、4.6%E(女性)となる。 上記値を参考にして、目安量として、4~5%Eとしている。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
コレステロール値との関連
・肝臓でのコレステロール合成が減って血液中のLDLも減る。 ・摂りすぎるとHDLも減少させてしまう。 ・不飽和結合を多く持つのでLDLが酸化されやすくなる。 ※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール 日本経済新聞出版社』
循環器疾患との関連
●心疾患との関連 ・n-3系とn-6系脂肪酸の混合脂質摂取は心筋梗塞の罹患リスクを22%低下させたが、n-6系脂肪酸のみだと13%の増加が認められている。 ●脳卒中との関連 ・日本人の脳卒中を対象とした前向きコホート内症例対照研究では、血清脂質中のリノール酸比が34%の群は、22%の群と比較し、脳卒中の発症のオッズ比が0.43に低下していた。 しかし、n-6系脂肪酸摂取量と脳梗塞罹患率を調べたコホート研究では、関連は認められていない。 ●過剰摂取のリスク ・リノール酸は、一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸よりも酸化されやすく、多量に摂取した場合(10%E以上)のリスクは十分に解明されていない。 ※%E(エネルギー比率) 総エネルギー摂取量に占める割合 ・リノール酸は炎症を惹起するプロスタグランジンやロイコトリエンを生成するので、多量摂取時の安全性が危惧される。 リノール酸過剰摂取で認められた乳がん罹患や心筋梗塞罹患の増加は、リノール酸の酸化しやすさ、炎症作用が原因かもしれない。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
●他の研究事例
○米国ハーヴァード大学からの研究報告 ・系統的レビューとメタ分析によって冠動脈疾患のリスクに対するリノール酸の摂取効果を検討した。13件のコホート研究が対象で、対象者総数は310,602名、12,479件の冠動脈疾患事象と5,882件の冠動脈疾患死が含まれていた。 ・解析の結果、食事からのリノール酸の摂取には、冠動脈疾患のリスクと負の相関関係が、用量依存的に認められた。 最も摂取の低い人々に比べて、最も摂取の高かった人々では、食事からのリノール酸の摂取は、冠動脈疾患のリスクが15%低く、冠動脈疾患死のリスクは21%低かった。 これらの結果は、喫煙や食物繊維などほかの一般的な冠動脈疾患のリスク因子とは独立していた。 ※参考文献 Dietary linoleic acid and risk of coronary heart disease: a systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies.
血糖値との関連
・Nurses’Health研究で、植物油摂取量と糖尿病罹患との間に弱い負の関係が見いだされているが、植物油に含まれる脂肪酸の種類については明らかにされていない。 最近の研究では、n-6系脂肪酸摂取量と糖尿病罹患との関連は認められていない。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
●他の研究事例
○先行の研究 ・リノール酸が心臓血管にもたらす効果を示した先行研究から、米国心臓協会は2009年に、エネルギーの少なくとも5~10%を、リノール酸を含むオメガ6脂肪酸の形で摂ることを勧めている。 ・リノール酸サプリメントの摂取で、除脂肪体重が増加し、体幹部の脂肪が減少した。 ・リノール酸は、加工食品用に硬化(水素添加)されると、トランス脂肪酸に変換される可能性が高い。 ○米国オハイオ州立大学からの研究報告 ・139人が参加した2つの先行研究のデータを使用した。これらの研究では、DXAスキャン、脂肪や筋肉量を測定して身体組成を評価した。 体内のリノール酸は、全て食品に由来する。12時間絶食後の男性と女性で血液検査をして、赤血球中のリノール酸(と他の脂肪酸)量を計算した。 そして、インスリン抵抗性、疾患に関連する炎症を示す2つのマーカーを評価し、リノール酸、オレイン酸、長鎖オメガ3脂肪酸について、結果をプロットした。 ・リノール酸濃度が高めであると、心臓病につながる脂肪や炎症が減り、除脂肪体重は増え、また、インスリン抵抗性の可能性が低下することを発見した。 この知見は、心臓病や糖尿病の予防をもたらす可能性があり、除脂肪体重が高めであると長寿につながるので、高齢者に重要であるだろう、と研究者は述べている。 ・オレイン酸(オリーブオイル)や長鎖オメガ3脂肪酸(サケやマグロ)の血中濃度が上昇すると炎症は減少するが、身体組成や糖尿病リスクの低下を示すマーカーとは関係がないようであった。 ※参考文献 Erythrocyte linoleic acid, but not oleic acid, is associated with improvements in body composition in men and women.
○東フィンランド大学からの研究報告 ・2型糖尿病との診断がない42歳から60歳までの男性2,189人を19年間追跡調査。 ・血清中のオメガ-6系多価不飽和脂肪酸の濃度が高いことが、2型糖尿病の発症リスクが46%低いことと関連することを見出した。 ・様々なオメガ-6系脂肪酸の中で、リノール酸とアラキドン酸の濃度が高いと糖尿病リスク低く、γ-リノレン酸とジホモ-γ-リノレン酸の濃度が高いと、リスクは高めになるという関連がみられた。 ・血清中のリノール酸の濃度は、食事で決まり、リノール酸の主な供給源は、植物油、ナッツ、種子である。 ・アラキドン酸は、肉や卵に存在しているが、人体では、リノール酸からアラキドン酸を作ることもできる。 ・γ-リノレン酸とジホモ-γ-リノレン酸は、主にリノール酸から人体でつくられ、血清中の濃度は、例えば、リノール酸と比較して非常に低い。 ※参考文献 Serum n-6 polyunsaturated fatty acids, Δ5- and Δ6-desaturase activities, and risk of incident type 2 diabetes in men: the Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study
がんとの関連
●がんとの関連 ・最近のコホート研究や症例対照研究で、n-6系脂肪酸摂取量と乳がん罹患に正の関連が認められている。 ●過剰摂取のリスク ・リノール酸は、一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸よりも酸化されやすく、多量に摂取した場合(10%E以上)のリスクは十分に解明されていない。 ※%E(エネルギー比率) 総エネルギー摂取量に占める割合 ・リノール酸は炎症を惹起するプロスタグランジンやロイコトリエンを生成するので、多量摂取時の安全性が危惧される。 リノール酸過剰摂取で認められた乳がん罹患や心筋梗塞罹患の増加は、リノール酸の酸化しやすさ、炎症作用が原因かもしれない。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸摂取量と乳がんとの関連について ・アンケート結果に基づいた魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸の摂取量を4つのグループに分け、グループ間での乳がん罹患リスクを比較した。 ○全体の結果 ・魚、n-3(EPA, DHA, DPA, ALA を含む)及びn-6不飽和脂肪酸の摂取量と乳がん全体のリスクとの関連はみられなかった。 ○ホルモン受容体の有無別の結果 ・乳がんのリスクは、乳がん組織がホルモン依存性(ホルモン受容体陽性)か否かによって異なることが指摘されている。ホルモン受容体の有無別にみると以下の傾向があった。 ・n-6不飽和脂肪酸の摂取量が最も少ないグループに比べ、最も高いグループにおいては、ホルモン受容体陽性(エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陽性)乳がんのリスクが2.94倍高くなった。 ・EPA、DHA、DPAについては、摂取量が多い群においてホルモン受容体陽性乳がんリスクが低い傾向がみられた。