前立腺がんの概要

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. 前立腺がんとは?
  2. 症状
  3. 原因、リスク要因
  4. 疫学・統計
  5. 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
  6. ネットニュースによる関連情報

前立腺がんとは?

・前立腺は男性だけにあり、精液の一部をつくっている臓器。
・遺伝子の異常が原因といわれているが、正常細胞がなぜがん化するのか、まだ十分に解明されていないのが現状。
・前立腺がんは近くのリンパ節や骨に転移することが多いが、肺、肝臓などに転移することもある。
・前立腺がんは早期に発見すれば手術や放射線治療で治癒することが可能。
 また、比較的進行がゆっくりであることが多いため、かなり進行した場合でも適切に対処すれば、通常の生活を長く続けることができる。
・前立腺がんでは、PSA検査の普及によりラテントがん(生前、検査や診察などでは見つからず、死後の解剖により初めて確認されるがん)を発見する頻度が高くなる可能性が指摘されており、このような過剰診断が問題視されている。

がんとは?

症状

・早期の前立腺がんには特徴的な症状はみられない。
・同時に存在することの多い前立腺肥大症による症状、例えば尿が出にくい、尿の切れが悪い、排尿後すっきりしない、夜間にトイレに立つ回数が多い、我慢ができずに尿を漏らしてしまうなどがみられる場合がある。
・前立腺がんが進行すると、上記のような排尿の症状に加えて、血尿や骨への転移による腰痛などがみられることがある。
・腰痛などで骨の検査を受け、前立腺がんが発見されることもある。また肺転移がきっかけとなって発見されることもある。
・最近は、症状がなくても人間ドックなどの血液検査で、前立腺特異抗原(PSA)が高値であることがわかり、専門医を受診する場合が増えている。

原因、リスク要因

・前立腺がんの確立したリスク要因は、年齢(高齢者)、人種(黒人)、前立腺がんの家族歴とされている。
・動物実験などから、男性ホルモンのアンドロゲンが前立腺がんの発生に重要な役割を果たしているのではないかと考えられてきたが、現在のところ、疫学研究ではこの仮説に一致する結果は得られていない。
・最近では、細胞増殖に関わるタンパク質の一種IGF-1によってリスクが高くなる可能性が指摘されている。
・食事・栄養素に関しても、現在前立腺がんとの関係が明らかになっているものはないが、リスク要因として、乳製品、カルシウム、肉、脂肪、予防要因として大豆、リコペン、セレン、ビタミンE、魚、コーヒー、野菜などが候補にあげられている。
※前立腺がんと大豆との関連については以下の記事参照。
大豆製品、イソフラボンの健康影響
※リコペンと前立腺がんの関連については以下の記事参照。
カロテノイド、リコペンの概要、効果、健康影響の”リコペンの概要、健康影響”
※セレンと前立腺がんの関連については以下の記事参照。
ミネラル セレンの概要の”セレンとがんとの関連”

ミネラル セレンの概要


※ビタミンEとの関連については以下の記事参照。
ビタミンEの概要、効果、病気予防効果の”ビタミンEとがんとの関連”
※食物繊維との関連については以下の記事参照。
食物繊維の摂取と健康への影響の”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
・喫煙、体格、アルコール、身体活動についても、関連の可能性が探られているが、関連はないとする研究が多い状況。
 

●カルシウムと前立腺がん
 
・複数の疫学的研究では、カルシウム、乳製品またはその両方の大量摂取と前立腺がん発症リスクの増加に関連性があることが判明している。
 しかし、結果には一貫性がなく、カルシウム摂取と前立腺がんリスクにおいて弱い関連性があるという結果やまったく関連性がないという結果、または好ましくない関連性があるという結果が得られている。
 前向き研究のメタ解析の著者らは、乳製品およびカルシウムを大量に摂取すると前立腺癌リスクがわずかに増加する可能性があるという結論に達した。
 
・入手可能なエビデンスの解釈には複雑さが伴う。それは、乳製品の影響とカルシウムの影響を区別することが困難なためである。
 全体的に、観察的研究の結果から、カルシウムの1日総摂取量が1,500mgまたは2,000mg以上であれば、それがもっと低い場合(500-1,000mg)と比べて、前立腺がん(特に進行性または転移性がん)のリスクが増大する可能性があるものと示唆される。
 
・前立腺がんのリスクへのカルシウムおよび/または乳製品の影響を明らかにし、潜在的な生物学的メカニズムを解明するためには、さらなる研究が必要とされる。
 
※参考情報
カルシウム | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業
 
※日本の前向きコホート研究については以下を参照。
多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
  
疫学・統計
・予測がん罹患数(2014年)では、がん全体に占める割合が、15%となっている。 ・前立腺がんは、65歳以上から増えてきて、加齢に従って発生率が高くなる。 ・日本を含むアジアでは前立腺がんは少ないといわれていたが、近年では日本でも増加してきている。
予防方法
多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について
 
・乳製品、牛乳、チーズ、ヨーグルトの摂取量によって4つのグループに分けて、最も少ないグループに比べその他のグループで前立腺がんのリスクが何倍になるかを調べた。
 
○結果
・乳製品、牛乳、ヨーグルトの摂取量が最も多いグループの前立腺がんリスクは、最も少ないグループのそれぞれ約1.6倍、1.5倍、1.5倍で、摂取量が増えるほど前立腺がんのリスクが高くなるという結果だった。
・日本人男性にとって、乳製品はカルシウムだけでなく、飽和脂肪酸の主要な摂取源なので、カルシウム、飽和脂肪酸についても調べると、カルシウムも飽和脂肪酸も同様に、前立腺がんリスクをやや上げる傾向にあった。
・飽和脂肪酸は炭素数の違いによりさらに細かく分かれるので、成分別にみてみると、ミリスチン酸、パルミチン酸の摂取量が最も多いグループの前立腺がんリスクは、最も少ないグループの、それぞれ約1.6倍、1.5倍であり、摂取量が増えるほどリスクがあがるという結果だった。
 
○乳製品と前立腺がんとの関係
・欧米では多くの研究で乳製品が前立腺がんのリスクであることが報告されている。
 カルシウム摂取により、前立腺がんのリスクと関係のある、血中のビタミンD濃度を下げたり、IGF-1濃度を上げたりすることで前立腺がんのリスクとなる可能性が考えられ、2007年の世界がん研究基金と米国がん研究協会(WCRF/AICR)による、主に欧米の疫学研究の結果をまとめた報告によると、カルシウムは前立腺がんのリスクを上げる可能性があることが指摘されている。
 しかし、今回の研究では、カルシウム摂取と前立腺がんとの関連は強くなかった。この理由として、日本人は欧米人と比較してカルシウム摂取量が少ないことが考えられる。
・一方、乳製品に含まれる飽和脂肪酸の摂取により、テストステロン濃度を上げることで前立腺がんのリスクとなる可能性も推測されている。今回の研究では、飽和脂肪酸の中でも、ミリスチン酸やパルミチン酸と前立腺がんとの関連が見られ、日本人男性の前立腺がんでは、カルシウムよりも飽和脂肪酸の関連がより強いように見る。
 しかし、今回の研究では、カルシウムを多くとる人は飽和脂肪酸も多くとっている傾向があったために、カルシウムと飽和脂肪酸の影響が完全に分けられていない可能性があるので、どちらが影響しているのかは結論づけられなかった。
 
○乳製品の摂取は控えた方がよいのか?
・今回の研究では、乳製品をたくさん摂取すると前立腺がんのリスクが高くなったが、一方、乳製品の摂取が、骨粗鬆症、高血圧、大腸がんといった疾患に予防的であるという報告も多くある。

 

●飲酒・喫煙と前立腺がんとの関連について
 
・アンケート調査で、飲酒習慣の項目についての回答を基にして、"飲まない(月に1回未満)"グループ、"時々飲む(月に1-3回)"グループ、さらにそれ以上飲むグループをアルコール量によって3つのグループに分けた。喫煙については、"吸わない"グループ、"やめた"グループ、さらに"吸う"グループを喫煙本数×年数によって、3つのグループに分けた。それぞれ、合計5つの飲酒/喫煙状況グループでその後の前立腺がんの発生率を比較した。
 
○飲酒との関連の結果
・飲酒と全ての前立腺がんには関連がなかったが、限局がんと進行がんに分けて、飲酒によるリスクを比べたところ、飲まないグループと比べ、アルコール摂取量が多いグループで進行前立腺がんのリスクが高くなった。飲まないグル―プと比べ、週当たりの摂取量がエタノール換算150g以上グループのリスクが1.51倍と高くなった。限局前立腺がんでは、飲酒との関連はみられなかった。
 
○喫煙との関連の結果
・喫煙と、全ての前立腺がん、および、限局前立腺がんでは、吸わない人に比べて、吸う人のリスクが低くなった。
 しかし、これは、近年のPSA検査の普及により、健康意識が高い人(例:たばこを吸わない人。お酒を多量に飲まない人。)でPSA検査を受ける人のほうが、より前立腺がんが発見される影響(検診バイアス)を反映している可能性がある。
 そこで、PSA検査を受けずに、自覚症状で発見された前立腺がんに限定して、飲酒・喫煙との関連をみると、飲酒と前立腺がんの結果は変わらなかったが、喫煙と前立腺がんは、結果が逆転しており、統計学的有意ではないが、吸わないグループとくらべて、たばこを吸うグループの進行前立腺がんリスクが高くなった。
 
○飲酒、喫煙が前立腺がんのリスクになるメカニズム
・飲酒が前立腺がんのリスクになるメカニズムとして、お酒に含まれているエタノールが分解されてできるアセトアルデヒドがもつ発がん性や、アルコールによる前立腺がんリスク要因である性ホルモンなどへ影響、などの可能性があげられる。
・喫煙にも前立腺がんの進行を促進させるエストロゲン代謝物を増加させるなどのメカニズムにより、進行前立腺がんのリスク因子となる可能性が考えられるが、喫煙者は進行がんになるまで、病院を受診しない可能性も否定できない。

 

●血中性ホルモン濃度と前立腺がん罹患との関連について
 
・テストステロンなどの性ホルモンは前立腺の発育に不可欠な一方、前立腺がんの危険因子の一つと考えられている。
 大豆やイソフラボンは前立腺がんのリスクを下げる可能性が指摘されているが、それらの食品を摂取すると血中ホルモン濃度が変動することも報告されている。
 そこで、血中性ホルモン濃度と前立腺がんとの関連を検討した。
・保存血液を用いて、テストステロン、性ホルモン結合グロブリン濃度を測定した。
 それぞれのホルモン濃度の値によって最も低いから最も高いまでの4つのグループに分け、前立腺がんリスクを比較した。
 
○結果
・統計学的有意な差はなく、いずれの物質についても前立腺がんリスクとの間に関連は見られなかった。
・これまでに主に欧米で行われた18の前向き研究を統合解析した結果でも、テストステロンなど9つの性ホルモンによる前立腺がんリスクの上昇はみられなかった。
 欧米人と比べてBMIが低く、大豆製品・イソフラボンを多く摂取している日本人でも、テストステロンによる前立腺がんリスクの上昇はみられなかった。

ネットニュースによる関連情報

●クルミでコレステロールの低下と前立腺がんの増殖抑制
 
・マウスの一方の群に丸のままのクルミあるいはクルミ抽出油の食事を与え、対照群にはクルミの脂肪組成と同じ脂質を加えた食事を与え、18週間にわたって比較したところ、丸のままのクルミあるいはクルミ油ではコレステロールの低下と前立腺がんの増殖抑制効果が見られたのに対し、クルミを模した脂質構成ではそのような効果は見られなかった。
 
ただし、今回マウスに用いたクルミは、人間の体重に治すと2.6オンス、482kcalにもなるので、毎日食べるのは現実的とはいえない。

 

●サイクリングと前立腺がんとの関連
 
・サイクリングの時間とED・不妊症には関連が見られなかった。しかし、50才以上の男性では前立腺がんのリスクは時間が増えるにつれ段階的に増加していた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください