脳卒中の概要と予防

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  1. 脳卒中とは?
  2. 脳卒中の分類
  3. 脳卒中の危険因子
  4. 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
  5. ネットニュースによる関連情報

脳卒中とは?

・脳の血管が破れるか詰まるかして、脳に血液が届かなくなり、脳の神経細胞が障害される病気。
・より早期(3時間以内が目安)に治療を開始すると後遺症が軽くなることがある、救急疾患。

脳卒中の分類

1)脳梗塞(脳の血管が詰まる)
 
・脳梗塞の過半を占める。
・脳動脈の閉塞ないし、狭窄に伴って神経細胞に血液が十分に供給されなくなり、神経細胞が障害される。
・病態により”ラクナ梗塞”、”アテローム血栓性脳梗塞”、”心原性脳塞栓”の3つの病型に分けられる。
・”ラクナ梗塞”、”アテローム血栓性脳梗塞”は脳血栓症の範疇に入り、細い血管の動脈硬化によるものをラクナ梗塞、太い血管の動脈硬化によるものをアテローム梗塞と言う。
・”心原性脳塞栓症”は心臓内にできた血栓などの異物が血液の流れにのって脳に届き、脳動脈をつめて起こる。
 突然大きな血管が閉塞することが多く、3つの病型のなかでは最も急激に症状が現れ、重症であることが多い。
 
2)脳出血(血管が破れる)
 
・脳動脈が破れ、あふれでた血液が神経細胞を障害することで、症状が出現。
・細い血管(細小動脈)が主に高血圧に由来する動脈硬化で傷み、破綻して起こる。
・細小動脈は脳内に入り込んでいるので、出血は脳内に広がる。
 
3)くも膜下出血(動脈瘤が破れる)
 
・脳動脈の破れにより症状が出現するが、破れる血管は脳の表面を走る主幹脳動脈で、血管の一部が瘤状に膨れた脳動脈瘤が破裂する。
 動脈瘤が破裂すると、脳の表面を覆う”くも膜”という薄い膜の内側に出血する。
 くも膜下出血は脳卒中の中では死亡率が高く、重症な病態。
 
4)一過性脳虚血発作(TIA)(脳梗塞の症状が短時間で消失する)
 
・脳梗塞と同じ機序で起こった神経症状が24時間以内に消失する状態をいう。
・ほとんどの場合は1時間以内に症状が消失し、数分間の発作で済んでしまう場合も少なくない。
・脳梗塞の前触れ発作として重要で、放置すると脳梗塞を引き起こす可能性が高い。

脳卒中の危険因子

●高血圧
 
・血圧が140/90mmHg以上。この数値以下でも、数値が高めの人は注意が必要。
・脳の血管の大きな負担となり、動脈がもろくなり、詰まったり、破れたりしやすくなる。
 
※高血圧と動脈硬化、脳卒中との関連については以下の記事を参照。
動脈硬化の概要、危険因子、起こりやすい部位の”原因と危険因子”参照
 
●糖尿病
 
※以下の記事を参照。
高血糖と動脈硬化
 
●脂質異常症
 
※以下の記事を参照。
コレステロールと動脈硬化
 
●不整脈(心房細動)
 
・心臓の中にできた血栓が、心臓から脳に飛ぶことで脳の動脈を閉塞させる。
・ワルファリンなどの抗凝固薬を用いることで血栓が作られなくなり、脳梗塞を予防することが可能。
 
●喫煙
 
※以下の記事を参照。
タバコと心疾患
 
●その他
 
男性、高齢者、肥満、過度の飲酒、運動不足などが脳卒中の危険因子としてあげられている。

多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス

※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●血清コレステロール値と脳卒中とその病型別との関連について
 
・これまで欧米研究において、血清総コレステロールの高値のアテロ―ム性脳梗塞との間に関連がみられてきたが、日本人を含むアジア人においては、血清総コレステロール値が低く、その上アテロ―ム性脳梗塞の発症率が低いこともあり、コホート研究を用いた疫学的な検討はあまりされていなかった。
 本研究では、研究開始時の調査において、血清総コレステロール値を180mg/dl未満、180~199、200~219、220~239、240mg/dlの5群に分類し、平均12年間を追跡し、その後の脳卒中病型別発症のハザード比を検討した。
 
○結果
・血清総コレステロール値が180mg/dl未満の男性に比べ、血清総コレステロール値が240mg/dl以上の男性において、脳梗塞の発症リスクが高いことが認められた。
 女性では関連がみられなかった。(血清総コレステロール値が180mg/dl未満の群を1とした場合、血清総コレステロール値が240mg/dl以上群の男性で1.63で、女性で1.03)
・男女とも血清総コレステロール値と脳内出血やくも膜下出血との間とは関連がみられなかった。

 

●飽和脂肪酸摂取と循環器疾患発症の関連について
 
・飽和脂肪酸摂取量と脳卒中、虚血性心疾患発症との関連を調べた。
 
○結果
・1日に食べる飽和脂肪酸が多いほど、脳出血や脳梗塞による発症リスクは低い結果となった。
・飽和脂肪酸の摂取量が多くなるにつれ、心筋梗塞の発症率は高い結果となった。
 
○飽和脂肪酸摂取は、多すぎても、少なすぎても良くない
・従来、飽和脂肪酸は血清のコレステロール値を高くし、将来的に粥状動脈硬化になりやすくなることから、摂取を控えるような指導がなされることがあったが、最近の結果から、飽和脂肪酸は無害であり、制限する必要はないという説もある。
・本研究と過去の日本や欧米で実施されたいくつかの研究を総合的にみると、脳卒中並びに心筋梗塞の発症リスクが低いのは、飽和脂肪酸の摂取量が1日に20g前後の集団と考えられる。(牛乳を毎日コップ1杯(200g)、肉を2日に1回(1回につき150g程度)の摂取)

ネットニュースによる関連情報

〇仏ボルドー大学からの研究報告
 
・平均年齢74歳の7,484名の男女を対象に2年ごとに対面で聞き取り調査を実施。データ解析には教育、職業、収入、生活習慣などが考慮された。
 
・平均9年間の追跡調査の結果、コレステロール低下薬服用者は、非服用者に比べて、脳卒中のリスクが3割低下することを発見した。
・冠動脈疾患のリスクについては関係がみられなかった。
 
※参考文献
Primary prevention with lipid lowering drugs and long term risk of vascular events in older people: population based cohort study.

 

〇脳卒中と記憶の関係
・多くの研究で脳卒中が記憶に障害をもたらすことが示されている。
 
〇エラスムス大学ロッテルダムからの研究報告
 
・55歳以上の9,152名の記憶能力調査をしてその後追跡調査を行った。
 
・データ解析の結果、記憶問題は独立して脳卒中の発症リスクを高める因子であることが明らかになった。
 特に、高等教育を受けた者においては、記憶問題が脳卒中のリスクを39%高めることがわかった。この知見は、高等教育を受けた人々の間で記憶問題とアルツハイマー病に関連が見られることに類似した現象といえる。
 
※参考文献
Memory Lapses Among Well-Educated May Signal Stroke Risk
Memory lapse in people with higher education can signal stroke risk, study finds.

 

〇ミネソタ大学・ノースウェスト大学・ワシントン大学・マイアミ大学・ミシガン大学による共同研究
 
・6,700名以上の成人(45-84才、53%が女性)参加者を対象に、2年間の慢性ストレス・抑うつ症状・怒り・敵意を評価するアンケートを行い、8.5~11年間追跡調査を行った。参加者は38.5%が白人・27.8%がアフリカ系アメリカ人・11.8%が中国人・21.9%がヒスパニックだった。
 
・その結果、以下のような特徴が見られた。
 抑うつ症状が高い人は脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)となる確率が86%高かった。
 慢性ストレスが高い人は、脳卒中またはTIAとなる確率が59%高かった。
 敵意スコアが高い人は、脳卒中またはTIAとなる確率が倍以上であった。
 怒りには疾病リスクの増加と有意な関係は見られなかった。
 
※参考文献
Chronic stress, depressive symptoms, anger, hostility, and risk of stroke and transient ischemic attack in the multi-ethnic study of atherosclerosis.

 

〇カナダ・マクマスター大学など32カ国の研究者らによる大規模国際共同研究
 
・22か国6,000人の参加者からのデータによって、10の変更可能なリスク因子が同定された。
 
・その結果、以下の10のリスク因子(カッコ内はPAR:人口寄与危険度)が明らかになった。
高血圧(47.9%)
身体活動(35.8%)
貧しい食生活(23.2%)
肥満(18.6%)
喫煙(12.4%)
心臓関連(9.1%)
糖尿病(3.9%)
飲酒(5.8%)
ストレス(5.8%)
脂質(26.8%)
・これら10のリスク因子によって、PARは90.7%となり、これは全地域、年齢層、性別で同様だった。
 しかし、いくつかの因子は地域によって開きがみられた。たとえば、西欧、北米の高血圧のPARは38.8%だが、東南アジアでは59.6%と高かった。
 
※参考文献
Global and regional effects of potentially modifiable risk factors associated with acute stroke in 32 countries (INTERSTROKE): a case-control study

 

〇オーストラリアのモナッシュ大学とモナッシュアジア研究所による研究
 
・約4,000名の台湾の参加者を対象に、乳製品消費の増加が台湾の健康と長寿に及ぼした影響を検討した。
 
・乳製品の消費の増加が心血管疾患、特に脳卒中による死亡リスクを低くすることが観察されたが、がんのリスクとの有意な関連は認められなかった。
・乳製品を全く食べない人は、そうでない人よりも一般的に血圧やBMIが高く、 体脂肪も多かった。また週に3-7回乳製品を取り入れている台湾人は、何も食べていない人より生き残る可能性が高かった。
・乳製品の1日の消費量は、週に5サービング程度が最適だと言う。1サービングはコップ1杯の牛乳・チーズ45g・タンパク質8gに相当する。
 このくらいの量だと乳糖不耐症の人でも問題が起こることはめったにないとのことである。
 
※参考文献
Optimal dairy intake is predicated on total, cardiovascular, and stroke mortalities in a Taiwanese cohort.

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