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骨粗鬆症の定義、診断基準
●WHOの定義 ・"骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である"と定義。 ・骨粗鬆症は"疾患"であり、骨折を生じるに至る病的過程であり、骨折は結果として生じる合併症の一つであるとした。 ●2000年の米国立衛生研究所(NIH)におけるコンセンサス会議での定義 ・"骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患"と定義。 ・"骨強度"は、骨密度と骨質の二つの要因からなり、骨密度は骨強度の70%を説明し、残りの30%は"骨質"により説明できるとした。 ・骨質を規定するものは、微細構造、骨代謝回転、微小骨折、骨組織の石灰化度など。 ●日本の診断基準 ・脆弱性骨折(転倒、もしくはそれ以下のわずかな外力で生じた骨折)のある例では骨折リスクが高いという事実を重視し、脆弱性骨折のある場合とない場合の2つのカテゴリーにわけて基準を設けた。 ・2012年度改訂版では、脆弱性骨折の有無による2つのカテゴリーをもとに、既存骨折種による分類を追加し、骨密度測定部位を原則として腰椎または大腿骨近位部とした。 ●骨折危険因子 ・低骨密度、骨密度と独立した因子である既存骨折、喫煙、飲酒、ステロイド薬使用、骨折家族歴、運動不足、生活習慣、種々の生活習慣病など。 ※参考資料 『骨粗鬆症の 予防と治療ガイドライン 2015 年版 - 日本骨粗鬆症学会』
●骨粗鬆症の概要 ・全身の骨量(骨の強さを規定する量的因子の総称)の減少と骨の内部構造や質の変化により、骨折が起こりやすくなる病気。 ・骨量は成長とともに増加し30歳代までに最大骨量に達した後、加齢により減少していくが、特に女性では閉経を迎える40~50歳代に急激な骨量の減少がみられる。 ・骨は人間の身体を支える支柱としての役割を果たすだけでなく、人の体内でカルシウム代謝を担う中心的な役割を果たしている。 ・骨粗鬆症は加齢とともに増加する老年病の一つであるが、栄養摂取状況や運動等の生活習慣とも深く関連しており、生活習慣病の一つでもあると考えられている。 ●運動との関連 ・成長期・思春期の運動は高い最大骨量を得るのに重要であり、また加齢による骨量の減少を緩やかにする効果があると考えられている。 ※参考資料『平成21年9月発行 毎日くだもの200グラム運動指針(8訂版)』
骨リモデリング
●骨の新陳代謝(骨リモデリング) ○骨リモデリング ・古い骨は破骨細胞に吸収され、骨芽細胞が作る新しい骨で補充され、新陳代謝している。 ・一連の過程は約3ヶ月を要する一つのリモデリング周期を構成する。 ・全骨格の3~6%が常にリモデリングされる。 ・これにより骨組織は劣化を修復して強度を保ち力学的刺激下で生体を維持する。 ・生体のカルシウム恒常性を維持するための供給源としての機能を果たす。 ○吸収相 ①破骨細胞が、骨基質との吸着面に酸を分泌して無機質を溶解。 ②破骨細胞が、タンパク質分解酵素を分泌して骨基質タンパク質を消化。 ③破骨細胞が、吸収窩を形成。 ○逆転相 ④骨芽細胞が骨表面に付着。 ○形成相 ⑤骨芽細胞が、Ⅰ型コラーゲンや骨基質タンパク質が産生された類骨が形成。 ⑥数日遅れたカルシウムやリンなどのミネラル成分の沈着により石灰化が生じる。 ⑦吸収窩が新生骨で埋められる。 ⑧骨芽細胞の一部は骨基質中に埋め込まれて骨細胞になり、残りは骨表面上でライニング細胞となる。 ●骨リモデリングを制御する因子 ○破骨細胞の分化 ・破骨細胞は単球・マクロファージか系の血球系細胞から分化する。 ・破骨細胞の分化には、骨芽細胞系細胞が産生するRANKL(NF-κB活性化受容体リガンド)が必要。 ○RANKL(receptor activator of NF-κB Ligand:NF-κB活性化受容体リガンド) ・腫瘍壊死因子(TNF)ファミリーに属するサイトカイン。 ・副甲状腺ホルモン、活性型ビタミンD、インターロイキン-1,6,11などの炎症性サイトカインはRANKLの発現を亢進させる。 ○骨吸収の抑制 ・血中カルシウム濃度が上昇するとカルシトニンというホルモンが分泌されて、破骨細胞に作用して骨吸収を低下させる。骨からのカルシウムの放出が抑制され、カルシウム濃度が低下する。 ・エストロゲンは直接破骨細胞による骨吸収を抑制するが、RANKLの発現を抑制することによっても破骨細胞分化を抑制する。 ○骨芽細胞の分化 ・骨芽細胞は間葉系幹細胞から分化する。 ・骨芽細胞の分化には、骨基質タンパク質、Wntといったホルモン・成長因子が必須の役割を果たす。 ○骨細胞の役割 ・骨芽細胞が、自らが分泌した骨基質に埋め込まれていく過程で、骨細胞が形成される。 ・骨細胞は骨基質中で多数の細胞突起を伸ばして互いに連結し、力学的負荷の変化や微小骨折などの骨質の劣化を感受して骨リモデリングを制御すると言われている。 ※参考資料 『骨粗鬆症の 予防と治療ガイドライン 2015 年版 - 日本骨粗鬆症学会』
骨粗鬆症発症の要因
骨粗鬆症は、"骨強度"の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる疾患と定義される。 ●骨強度 ・"骨密度"と"骨質"の2つの要因によって規定される。 ●骨密度の低下 ・石灰化に必要なカルシウム・ビタミンDの欠乏は骨密度低下につながる。 ・骨吸収が異常に活性化し、吸収された骨量を骨形成によって十分に補充できないと、骨密度は低下する。 ・加齢による筋力低下や寝たきりの不動により力学的負荷が低下することでも骨量は減少する。 ○エストロゲンの影響 ・閉経に伴いエストロゲンが減少する。 ・エストロゲンは直接破骨細胞による骨吸収を抑制しているので、閉経によるエストロゲン欠乏によって骨吸収作用が亢進し、骨量が減少。 ○カルシウムの欠乏 ・加齢に伴ってカルシウム吸収能が低下する。 ・血中カルシウム濃度が低下すると副甲状腺ホルモンが破骨細胞を間接的に刺激することで骨吸収を促進させる(骨からのカルシウム放出が増え、血中カルシウム濃度が増加する。) ○ビタミンDの欠乏 ・活性型ビタミンDは、小腸でカルシウムとリンの吸収を促すため、血液中のカルシウム濃度が高まり、骨の形成が促進される。 ・ビタミンDが欠乏すると、血中のカルシウムイオン濃度が低下し、その結果として、血中副甲状腺ホルモン濃度が上昇する。 副甲状腺ホルモンの作用で骨吸収が亢進して骨量が減少。血中カルシウムは増加。 ○ビタミンKの欠乏 ・ビタミンKには、カルシウムが骨に沈着するときに必要なオステオカルシンというタンパク質を活性化させる働きがある。 ・骨基質の主要な非コラーゲンタンパクであるオステオカルシンは、基質の石灰化に関与する。 ●骨質の劣化 ・石灰化が不十分な吸収窩が増加すると、微小骨折や断裂、連結性の低下といった骨質の劣化を引き起こす。 ・骨質の劣化は、骨基質タンパクの性状の劣化も関与している。 骨の重量あたり約20%、体積あたりでは50%を占めるコラーゲンの異常が関与している。 ○骨コラーゲンの異常 ・加齢、閉経、生活習慣病の罹患により高まる酸化ストレスが一つの要因。 ・血中ホモシステインの高値も関与している。 ○骨のコラーゲン含有量 ・コラーゲン含有量は30~40歳代をピークとして増加するが、その後、壮年期以降、減少していく。 ○コラーゲン分子間の架橋 ・壮年期以降は老化型の架橋が増加し、骨の微小骨折の原因となり骨強度を低下させる。 ○老化架橋の本体 ・老化架橋の本体は、酸化ストレスや糖化ストレスの増大により誘導されるAGEs(終末糖化産物) ○ビタミンK、オステオカルシン ・骨基質の主要な非コラーゲンタンパクであるオステオカルシンは、基質の石灰化に関与し、コラーゲンの線維形成や架橋形成にも影響を与えている。 ・ビタミンK不足によるオステオカルシンの減少は骨の材質特性を変化させる。 ※参考資料 『骨粗鬆症の 予防と治療ガイドライン 2015 年版 - 日本骨粗鬆症学会』
●閉経の影響 ・エストロゲン、プロゲステロンの産生が減ると、女性生殖器の組織が萎縮し菲薄化する・骨粗鬆症は、女性の実年齢より閉経に密接に関連している。 ・閉経前の骨量と閉経後、骨を喪失する割合、の2つの要素が高齢女性の骨格の状態を決める。 ・骨を喪失する過程の最大の要因はエストロゲン不足。エストロゲンは、毎日多量のカルシウムを摂取するよりも多くの骨組織を救う。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
●栄養との関連
・ミネラル カルシウムの概要の”カルシウムと骨との関連”
・ビタミンDの概要、効果、病気予防効果の”ビタミンDとフレイル、骨粗鬆症との関連”
・ミネラル マグネシウムの概要の”マグネシウムと生活習慣病との関連”
・大豆製品、イソフラボンの健康影響の”イソフラボンの概要、健康効果”
・果物の効用の”骨粗鬆症”
●テステステロンとの関連
・テストステロンの”加齢とテストステロン”、”テストステロン補充療法(TRT)”
●終末糖化産物(AGEs)との関連
糖化、終末糖化産物(AGEs)の健康への影響の”AGEsと老化”
ネットニュースによる関連情報
●お酒が弱い体質は、中高年女性の骨折リスク増大に関係? ・ALDH2遺伝子はアルコールを分解する時に働く酵素をつくる遺伝子で、この遺伝子の働きが生まれつき弱い人は、アセトアルデヒドをうまく分解できず、酒に弱くなる。 ・中高年の女性で大腿骨骨折した92人と骨折していない48人のALDH2遺伝子を調べて比較した結果、骨折した人の中で、この遺伝子の働きが弱い人は58%だったが、骨折していない人では35%だった。年齢などの影響を除いて比べると、遺伝子の働きが弱い人の骨折リスクは、ない人の2.3倍高かった。