脳の概要、分類、各部位の特徴

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  1. 脳の概要、分類
  2. 脳の情報処理の仕組み
  3. 大脳の機能的分類と役割
  4. 大脳新皮質の各部位の特徴
  5. 前頭葉の働き
  6. 大脳基底核
  7. 小脳
  8. 青斑核
  9. 大脳辺縁系(側坐核、帯状回)

脳の概要、分類

●脳と脳下垂体
 
・人間の脳は、大脳、間脳、脳幹、小脳の4種類の領域に分類される。
・脳下垂体は、脳に接して脳の直下(腹側)に存在し、脳とともに硬膜に包まれている。多くのホルモンを分泌する内分泌器官。
・脳の4つの領域の各領域には以下のようなものが含まれる(違う分類の仕方もある)
 
大脳:大脳半球
 新皮質:前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉
 古皮質、原皮質:大脳辺縁系
  海馬
  扁桃体
  側坐核
  帯状回
  その他
 大脳基底核
  線条体
   被核、尾状核など
  黒質
  その他
間脳
 視床
 視床下部
脳幹
 延髄
 橋
 中脳
 青斑核
小脳
 
●大脳の三つの構造
 
①大脳皮質
・大脳の表面に広がる、神経細胞の灰白質の薄い層。
・大脳基底核と呼ばれる灰白質の周りを覆っている。
・知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、脳の高次機能を司る。
・両生類から見られる古皮質と、哺乳類で出現する新皮質がある。
・個体発生の初期には古皮質が作られ、後に新皮質が作られる。
 
②白質
・大脳皮質の下にある神経線維の束。
・中枢神経系の神経組織のうち、ニューロンの本体である細胞体の集まっている部位のことを”灰白質”、灰白質から伸びた軸索が集まった部位を”白質”と呼ぶ。
 
③大脳基底核
・大脳中心部で間脳の周囲を囲むように存在し、大脳皮質と視床、脳幹を結びつけている神経核の集まり。
・哺乳類の大脳基底核は運動調節、認知機能、感情、動機づけや学習など様々な機能を担っている。
 

●爬虫類脳、辺縁系、新皮質
 
○爬虫類脳
・脳幹
・摂食、呼吸、心臓拍動といった基本的な生存機能と闘争・逃走衝動を促す原始的な恐怖や攻撃的感情を担っている。
 
○辺縁系
・無意識な社会的知覚の源となっている。社会的行動の発生において重要な役割を担っている。
・人間の場合には、腹内側前頭葉皮質、前帯状皮質、扁桃核、海馬、視床下部、基底核の各部分および、場合によっては眼窩前頭皮質などを含むいくつかの構造の集合体として定義されることが多い。
 
○新皮質
・原始的な哺乳類には欠けていることが多いため、新皮質、または新哺乳類脳と呼ばれている。
 
※参考資料『レナード・ムロディナウ(2013)しらずしらず ダイヤモンド社』

 

●脳の構造
 
○大脳皮質が発達する以前の脳
・外界からの情報を受け取って処理する役目はほとんど視床が引き受け、大脳基底核は運動や動作を受け持っていた。
 
○視床
・外部の世界を監視する役割を持つ。
・複数の核の集合体。
・ある核は視覚や聴覚や触覚など感覚情報を処理する役目を持ち、他の核は様々な感覚情報を統合している。
・視床には入力統合の複雑な階層が存在している。この階層の頂点にあるのが、前頭前野皮質と密接に統合しているが視床背内側核。
 
○視床下部
・生物の内部の状態を調整し、恒常性を維持するのに役立っている。
・核の集合体。それぞれの核は食物の摂取や体温の恒常性などに関与している。
 
○間脳
・視床+視床下部
 
○大脳基底核
・尾状核、被核、淡蒼球。
・前頭葉の制御下にあり、前頭葉と共同して働いている。
 
○小脳
・運動の中でも、とくに感覚情報に基づいて細かい運動をするときに重要になってくる。
・前頭前野皮質とも密接に関係し、複雑な計画にも関わっているらしい。
 
※参考資料『エルコノン・ゴールドバーグ(2007)脳を支配する前頭葉 講談社』

 

○視床
・主に感覚器官から入力を受け、それを中継して感覚皮質に送る。送られた入力情報は、感覚皮質でより高度な処理を受ける。
・中継所が必要な理由は、ほとんど分かっていない。
 
※参考資料『V.S.ラマチャンドラン(2012)脳のなかの天使 角川書店』

大脳新皮質の各部位の特徴

●前頭前野
 
・思考や創造性を担う脳の最高中枢。
・ワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プランニング、推論などの認知・実行機能を担っている。また、高次な情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程も担っている。
・情報を分析し、配列し、結びつける。
 
●前頭葉
 
・前頭前野の灰白質とその軸索の白質を含む。
 
●側頭葉
 
・単語と固有名詞のリストを作り、海馬と連携して長期記憶の形成を助ける。
 
※参考情報『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』

 

●前頭前皮質
 
・脳の前側全体に広がるやや大きい領域。高度な思考過程や作業記憶、推論、意思決定、自制などの処理を行う。
 
●頭頂葉
 
・注意力に関連しているだけでなく、ほかの皮質領域同士の関連付け、数学の計算や空間認識などの作業にも重要な役割を果たす。
 
※参考資料『ペネロペ・ルイス(2015)眠っているとき、脳では凄いことが起きている インターシフト』

 

●新皮質の外層
 
・感覚情報を入手して運動出力に変換する一連の情報の流路とみなせる。
・目、耳、皮膚から情報がインプット
→後頭葉、側頭葉、頭頂葉に存在する一次感覚領域へ中継
→上記の情報が集められて前頭葉に入る
→前頭葉で、取りうる行動をピックアップし、どの行動が最善か判断する。
→前頭葉は、深部脳領域とやり取りして、必要な行動をトリガーする。
・運動皮質は深部脳領域と協力して筋肉を働かせ、必要と選択した行動を実施する。
 
○後頭葉
・視覚過程
 
○頭頂葉
・感触や温度といった体や皮膚からの情報を統合し、空間感覚の形成。
・様々な環境をくぐりぬける際に周囲の事物に注意を払うことに関係する。
 
○側頭葉
・記憶形成、物体認識、情動反応の規制に携わる脳領域を含む。
 
○前頭葉
・人間の認識力のありか。
・前頭葉の後部、頭頂葉との境目に運動皮質がある。この部位には最終的に骨格筋とコミュニケーションをとる神経をすべて含んでいる。
 
※参考資料『ティモシー・ヴァースタイネン(2016)ゾンビでわかる神経科学 太田出版』

 

○後頭葉
・主に視覚の処理に関与。30もの異なる処理領域に分かれ、それぞれが別々の視覚の一面、たとえば色、動き、形態などにある程度まで特化している。
 
○側頭葉
・人の顔等の対象物を認知し、それを適切な情動と結びつけるなど、高次の知覚機能に特化している。
・側頭葉の前極に位置する扁桃体は対象物を情動と結びつける作用をし、新しい記憶の貯蔵に関与する海馬も側頭葉の下にしまいこまれている。
・左側頭葉の上部にあるウェルニッケ野は、意味の理解と言語の意味論的側面という人間特有の重要な機能を担っている。
 
○頭頂葉
・主として触覚、筋肉、関節の情報を処理し、それを視覚や聴覚や平衡覚と結びつけて、身体的自己や周囲の世界についての豊かな"マルチメディア"の理解をもたらす。
・右頭頂葉は、外界の空間的配置のメンタルモデルをつくりだすことに関与しており、自分の周辺と、そのなかに存在するあらゆる物体や障害物や人の位置や、それらと自分との位置関係のメンタルモデルがここで形成される。このおかげで物をつかんだり、飛んでくるものから身をかわしたり、障害物を避けたりすることができる。
・左の角回は人間に特有の重要な機能、たとえば計算、抽象化、それに単語の見つけ出しやメタファーなどの言語分野の機能に関与している。
・左の縁上回は、意図された熟練を要する動作、たとえば針で縫う、釘を打つなどの鮮明なイメージを想起し、それを実行する。
 
○前頭葉
・行動を計画し、目的を遂行するまでの間、それを心に留めておくことに関与する部位もある。
・対処の仕方を決めるまでの間、物事を記憶に保持しておくことが要求される小さな部位がある。(短期記憶、ワーキングメモリ)
・左の前部前頭葉が損傷されると、社会からの引きこもり、あらゆることに対する意欲の低下等の問題が生じる場合がある。
・右の前部前頭葉の損傷においては、幸せそうな様子を示す患者が見られるが、本人が実際に多幸感を持つわけではない。
 
※参考資料『V.S.ラマチャンドラン(2012)脳のなかの天使 角川書店』

大脳基底核

●マイネルト基底核
 
・新皮質へ広く投射する前脳基底部無名質にあるニューロン群。
・アセチルコリンとその合成酵素であるコリンアセチルトランスフェラーゼを多く含んでいる。
・変性によりアセチルコリンの産生が低下する。
 アルツハイマー病、レビー小体型認知症や精神的活動や記憶の減退を来すパーキンソン病などで見られる。
 認知症に対する多くの薬物治療は、低下したマイネルト基底核の機能をアセチルコリンレベルを増加させ代償することに焦点が当てられている。
 
●大脳基底核の黒質、線条体とパーキンソン病との関連
 
パーキンソン病
 
●大脳基底核、尾状核と記憶との関連
 
記憶の”記憶、学習と脳の部位”
 
●線条体、被核、尾状核と強迫性障害との関連
 
強迫性障害の”強迫性障害が関係する脳の部位”、”強迫性障害患者の脳の状態”
 
●尾状核と恋愛感情との関連
 
恋愛感情、性欲、愛着の”恋愛中の人の脳、恋愛感情”

・前頭前野を手伝い、情報をやり取りするリズムを保ちながら作業がスムーズに進むようにする。
・一種の自動変速機で、大脳皮質の要求に応じて、注意力に向ける資源を配分。
 
※参考情報『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』

 

・運動制御およびいくつかの技能の学習に深く関わっている。
 
※参考資料『ペネロペ・ルイス(2015)眠っているとき、脳では凄いことが起きている インターシフト』

 

・奇妙な形をした一群の神経核で、複雑な随意的行動に伴う自動運動の調節に関与する。
・損傷されると、パーキンソン病のような障害が生じる。
・基底核でドーパミンが過剰になると、ハンチントン舞踏病として知られる障害が起こる場合がある。
 
※参考資料『V.S.ラマチャンドラン(2012)脳のなかの天使 角川書店』

 

●線条体、被核、尾状核
 
○線条体
・基底核の一部。
・脳の中心部の深いところ。
・被核と尾状核が並んでいる。
・ある行動から別の行動へスムーズに移行させる働きをする。何かの運動をしようと決めると、邪魔になる運動や場違いの感覚は自動的に排除されて、意図する運動が速やかに効果的に実行される。
 
○被核
・行動や身体の動きを律する"自動スイッチング"の役割を担う。
 
○尾状核
・思考をつかさどる脳の前部のための"自動スイッチング"とフィルターの役割を担う。
・ある行動から次の行動へと"スイッチング(切り替え)"を行う。
 
※参考資料『ジェフリー・M・シュウォーツ(1998)不安でたまらない人たちへ 草思社』

 

●ドーパミンと線条体
 
・線条体は、脳の中でドーパミン受容体が集中している場所。
・線条体には、前頭葉などから様々な情報が集まってくる。
→ドーパミンは集まってきたたくさんの情報の中からなんらかの活動を選び出し、運動システムを関わらせている。
・線条体の中を流れるドーパミンがなければ、どのような動きも正確には制御できなくなる。
・何かをするときには、まずそれを行おうという"動機"が生まれ、その"動機"によって一連の"行為"が行われる。ドーパミンはこの過程をスタートさせる触媒として働いている。
 
※参考資料『グレゴリー・バーンズ(2006)脳が「生きがい」を感じるとき 日本放送出版協会』

小脳

※意識と小脳との関連については以下の記事参照。
脳と情動、意識、意思、注意の”意識と無意識、自由意志”

・前頭前野を手伝い、情報をやり取りするリズムを保ちながら作業がスムーズに進むようにする。
・原始的な部位で、動きのコントロールと精錬に関わる。動きのリズムだけでなく、脳のシステムのいくつかを調整し、そこが新しい情報をスムーズに流し、管理できるようにしている。
 
※参考情報『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』

 

・繊細な協調運動をコントロールしており、バランス、歩行、姿勢にも関与している。
・運動皮質(随意運動の指令を出す高次脳領域)から脊髄を介して筋肉に信号が送られるとき、その信号のコピーが、小脳にも送られる。
・全身の筋肉や関節の受容器からの感覚フィードバックも受ける。
・小脳は、意図された動きと実際の動きとの間にミスマッチがあれば、それを検知し、それに応じて運動の信号に適切な修正を加えることが出来る。
・損傷されると、自分の鼻に触ろうとしても行き過ぎてしまい、反対側に動かそうとするとまた行き過ぎてしまう。意図振戦
 
※参考資料『V.S.ラマチャンドラン(2012)脳のなかの天使 角川書店』

 

●小脳の機能
 
・基本的に、小脳は脳の運動系に対する"品質管理部門"。
・感覚入力も監視する。言語、時間的認知、感情処理、意思決定などにも役立っている。
 
※参考資料『ティモシー・ヴァースタイネン(2016)ゾンビでわかる神経科学 太田出版』

 

●小脳での処理
 
・感覚器官や運動器官を通じて外界との情報交換をひっきりなしに行う。
 
・視覚的、聴覚的、触覚的、そのほかいろいろな感覚の信号を受け取り、運動指令を発する。
 
・小脳は、ニューロンの数からいえば最も大きな神経組織といえるが、意識とはほとんど関係がない。
→小脳摘出を行った患者は、歩行や会話など運動に関わる動作が困難になるが、意識に関しては変化が見られない。
 
・大脳皮質の二つの半球は脳梁によってつながっているが、小脳の二つの半球は互いにつながっていない。
 小脳はいわゆる独立した"モジュール構造"で、無数の同じようなモジュールがばらばらに集まっている。
 小脳はこの特徴のおかげで、体の動きや他の機能を、驚異的な速さと正確さで調整できるといえる。
 日常動作や熟練した高度な動作を意識せずに行うことができるのは、この小脳の特徴のおかげ。
 
●小脳損傷時の挙動、意識
 
○小脳の全摘を受けた患者の特徴
・大股で、ふらつき、おかしな歩き方になる。
・ふるえがあり、言葉をほとんど一音節ごとに区切るように発し、爆発したようにしゃべりだすこともある。
・意識の経験は、損傷前とたいして違いが見られない。
考えは相変わらず滑らかに浮かび、以前のように多様で、鮮明さも変らない。
 
※参考資料『マルチェッロ・マッスィミーニ(2015)意識はいつ生まれるのか 亜紀書房』

青斑核

・脳幹にあるノルアドレナリン作動性ニューロンを多数含む神経核。
・覚醒、注意、ストレスとパニックに対する生理学的反応に関与している。

・注意システムは、脳幹にある覚醒中枢の青斑核を起点として四方に広がる双方向のネットワークで、報酬中枢、辺縁系、大脳皮質、小脳が関わっている。
・青斑核は、睡眠のオンオフを切り替える役割を担っていて、概日リズムと密接に結びついている。
 
※参考情報『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』

大脳辺縁系(側坐核、帯状回)

●帯状回
 
・大脳辺縁系の各部位を結びつける役割を果たしている。
・感情の形成と処理、学習と記憶に関わりを持つ部位。
 
※帯状回と強迫性障害との関連については以下の記事参照。
強迫性障害の”強迫性障害が関係する脳の部位”、”強迫性障害患者の脳の状態”
 
●側坐核
 
・皮質下の核で、辺縁系に含まれる。
・側坐核は嗅結節などとともに腹側線条体の一部。
・報酬、快感、嗜癖、恐怖などに重要な役割を果たすと考えられている。
※詳細は以下の記事参照。
快感、報酬、欲求、依存症

●側坐核
 
・前脳に存在する神経細胞の集団。
・報酬、快感、嗜癖、恐怖、薬物依存などに重要な役割を果たすと考えられ、またこの部位の働きが強い者ほど嘘をつきやすいことが京都大学の研究グループによって突き止められている。

 

●帯状回
 
・脳の中心部にある大脳皮質のもっとも深い部分。
・内臓や心臓をコントロールする中枢と結びついている。
・洗浄強迫や確認強迫などの強迫行為をしないと何か恐ろしいことが起こるぞ、と感じさせるのはこの部分。
 
※参考資料『ジェフリー・M・シュウォーツ(1998)不安でたまらない人たちへ 草思社』

脳の情報処理の仕組み

●脳の情報処理の仕組み
 
・神経やシナプスや回路のほかにも、たくさんの通信チャネルが存在する。
・脳の中にある情報伝達の多重経路は、もし流れがまっすぐ直線的にすすむのであればそうなると思われるような階層的経路ではなく、並列、回帰、フィードフォアード、フィードバックの結合を含んでいる。
 そこにはホルモン、ペプチドなど、多種多様の分子が存在し、情報のメッセンジャーとして働いている。
 情報は、ニューロンや軸索にかぎらず、システム全体をとりかこむ細胞外液をとおして全身にくまなく伝達される。このコミュニケーションの方法は液性伝達と呼ばれる。
 辺縁系は、様々な情報伝達の手段を組織化し、調整を行っている。
・神経系の各部は、前頭葉から脊髄にいたるまで、すべて辺縁系の構成要素をいくらか含んでいる。
・多重マッピングは、一つの入力がいくつかの出力にリンクすることによって可能となる。
→感覚器官からでた神経インパルスは一次感覚野のそれぞれのシナプスに到達するとすぐ、連合野の複数の領域に枝分かれして、さらに計算処理される。
→連合野の領域はそれぞれ別の感覚体験の面に関与する。
・個別の脳領域が複数のそれぞれ違うマップを処理する能力は、それぞれの領域の、入力と内部結合の複雑なパターンや、その計算と複数の出力とのリンクから生じる。これが分散システムと呼ばれるもので、複雑な機能(例えば視覚、聴覚、記憶、情動)の、ある特定の回路に支えられた数多くの面は、どこかの部位に厳密に局在するのではなく、回路そのものにそのとき起こっている支配的なプロセスのなかにあるという意味である。
 
※参考資料『リチャード・E.シトーウィック(2002)共感覚者の驚くべき日常 草思社』

 

●大脳の構築様式
 
○モジュール型
・伝統的な神経学では、脳は多数の機能的単位やモジュールの寄せ集めのようなものであり、それぞれは特定の認知機能に特化しているので相互作用は限られている、と考えられていた。
 視床など脳の原始的な部分や大脳皮質の古い部分は、この構造をとっている。こういった脳の構造から視覚皮質の限局した領域が障害されると、色彩感覚、運動視覚、奥行感覚といった特定の機能を喪失しやすい。
 このようなシステムは柔軟性がなく、新しいことを扱ったり、順応したり、学習したりする能力はほとんどない、と著者は述べている。
 
○勾配型
・新皮質には孤立した別個のモジュールや領域は存在せず、皮質表面に沿って認知機能が徐々に移行しているという"勾配型"の理論を著者は主張している。
 
※参考資料『エルコノン・ゴールドバーグ(2007)脳を支配する前頭葉 講談社』

大脳の機能的分類と役割

●大脳の機能的分類
 
・一次運動野、体性感覚野、視覚野、聴覚野、言語野、味覚野、嗅覚野など
 

●一次感覚野
 
・視覚、聴覚、触覚の一次感覚野
・味覚、嗅覚の一次感覚野は長いあいだ論議のまとになったが、すべての感覚が皮質に表象部位を持つという考えに違いは無い。
・一次野は皮質の最初の中継所で、ここが損傷されると、盲目、ろう、失語症など、機能が完全に失われる。
 
●二次の連合野
 
・それぞれの感覚について発見された。
・知覚の情報がさらに処理され、進んだ先の中継所で、高度に処理された情報を受け取っている。
・二次領域に損傷が起こった場合は、感覚がまったく失われるのではなく、感覚のゆがみが生じる。
 視覚失認の人は、対象物は見えるし、どんなものであるかを言うこともできるが、それが何であるかが分からず、何に使うかも分からない。
 
●頭頂葉の三次連合野
 
・視覚と聴覚と触覚が集まって諸感覚の連合が作り出される領域。
・諸感覚はそれぞれ独自の二次連合野を持っているが、三次連合野は一つしかなく、もっとも高次の抽象的な推論が行われる領域。
 
●異種感覚連合
 
・例えば子どもに何かを見せて、それからその子を物がいっぱいある暗い場所に入れる。その子は触覚だけで、さっき見た物体と同一のものを選んで認識できる。
・異種感覚連合の能力が言語の基礎であることが知られている。
・人間以外の動物で容易に確立できる感覚と感覚の連合は、快などの情動刺激と、視覚、触覚、聴覚といった非情動刺激との結びつきだけ。非情動刺激を二つ結び付けられるのは人間だけ。だから人は物に名前をつけられる。
 
※参考資料『リチャード・E.シトーウィック(2002)共感覚者の驚くべき日常 草思社』

 

●ペンフィールドの脳マップ
 
・脳のどこが体のどの部分と通じていて、その活動を処理しているかを調べ、脳の感覚野と運動野のマップを作成した。
・感覚マップも運動マップも、規則的に配列されていて、体の表面で隣り合っている部分は、たいてい脳マップでも隣り合っている。
 
※参考資料『ノーマン・ドイジ(2008)脳は奇跡を起こす 講談社インターナショナル』

 

●盲視、嗅覚、視床
 
○盲視
・医学的には目の見えない人が、ある種の視覚入力に対して無意識に反応できるケース。
・室内にある物体は見えないが、ぶつからないように歩けと言われれば、床の上にある普通ならつまずいてしまう障害物を避けて歩くことができる。
 
○視床
・感覚情報を必ずしも意識せずに利用できる能力が生じるのは、嗅覚を除くすべての感覚が新皮質に入る直前にまず視床を通過するため。
・視床は脳幹の上部に位置し、感覚入力が意識にのぼる前にそれを調節する手助けをする。
 
○嗅覚
・ほかの感覚と違い、嗅覚のインプットは新皮質、とくに感情と記憶を処理する皮質領域にじかに到達する。
→この事実がにおいと記憶の強い結びつきを支えるいるらしい。
 長い年月を経た後でも、においは記憶を呼び起こせる。
 
※参考資料『ティモシー・ヴァースタイネン(2016)ゾンビでわかる神経科学 太田出版』

前頭葉の働き

●記憶との関連
 
記憶の”記憶、学習と脳の部位”、”恐怖の記憶の消去”
 
●意志
 
脳と意識、意思、注意の”推論・意思決定”、”ソマティック・マーカー仮説”
 
●不安、計画、報酬との関連
 
不安、心配、恐怖、悲観の”前頭葉と不安、計画”
快感、報酬、欲求、依存症
 
●ADHDとの関連
 
注意欠陥・多動性障害(ADHD)

●前頭葉の活動
 
・前頭葉と前頭前野は脳のほかの部位ほど脳画像などの分析でオンとオフの違いがはっきりしていない。
 目覚めている間はたえず活動しており、特に何もしていないときでも働いている。
→辺縁系を抑制する、現在の経験をモニターする、将来の計画を立てるといった役割は絶え間なく活動していなくてはならない。
 
※参考資料『ラッシュ・ドージア Jr.(1999)恐怖 角川春樹事務所』

 

●随意運動
 
・頭頂葉が環境中にある事物の"どこに注意を向けるべきか"を示し、前頭葉が"何をすべきか"を決める。
続いて、前頭葉の後部にある運動野で動作を引き起こす。
 
例)手を伸ばして物をつかむとき
①前頭葉が目の前にある物を取るように指示。
②運動を計画する領域である運動前野が頭頂野と強調して、手をどのように動かして物をつかむか計算
③運動前野から一次運動野に命令が伝えられる
④一次運動野から筋肉に信号が送られる。
 
●決行か中止かの決定
 
①前頭葉が決行、中止の両方の決定を大脳基底核に送る。
②大脳基底核の神経経路の最初の入力部が線条体で、線条体には二つの競合する経路(直接経路(Go経路)、間接経路(中止))を通じて伝達される。
③上記二つの経路の争いでどちらの行動を実行するか決められる。
 
※参考資料『ティモシー・ヴァースタイネン(2016)ゾンビでわかる神経科学 太田出版』

 

●眼窩皮質
 
・脳の前部の下側にあって、眼窩のすぐうえに位置している。
・感情と思考の連携が行われる。
・脳の"過誤検知装置"で、何かが正しいか間違っているか、近づくべきか逃げるべきかを教えてくれる場所。
 
※参考資料『ジェフリー・M・シュウォーツ(1998)不安でたまらない人たちへ 草思社』

※眼窩皮質と強迫性障害との関連については以下の記事参照。
強迫性障害の”強迫性障害が関係する脳の部位”、”強迫性障害患者の脳の状態”

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