- がんの原因の寄与割合
- 喫煙
- 塩と塩蔵食品
- 貯蔵肉、赤身肉
- 熱い飲食物、カビ毒
- 野菜と果物の摂取不足
- 飲酒
- BMI、肥満、痩せ
- 運動不足
- ウイルス、細菌などの持続感染
- 職業要因
- 環境汚染
- 生殖要因、ホルモン
- 遺伝
●米国人のがんの原因 確立したがんの要因のがん死亡への推定寄与割合(%) ハーバード大学(アメリカ)のがん予防センターの推計、1996年 ・膨大な数の疫学研究(人を対象とした研究を根拠) ・肺、大腸、乳房、前立腺等の部位のがんが主要な死因であるアメリカでの推計値であって、日本人とは事情が異なることに注意が必要。 (要因) (寄与割合) 喫煙 30 成人期の食事・肥満 30 座業の生活様式 5 職業要因 5 がんの家族歴 5 ウイルス・他の生物因子 5 周産期要因・成長 5 生殖要因 3 飲酒 3 社会経済的状況 3 環境汚染 2 電離放射線・紫外線 2 医薬品・医療行為 1 塩蔵品・他の食品添加物・汚染物 1 ※参考サイト 人のがんにかかわる要因:[がん情報サービス]
●日本におけるがんの原因 ・2005年に日本で発生した部位別のがんのPAF (population attributable fraction, 人口寄与割合)を推計。 (要因) (寄与割合) 喫煙 20 感染性要因 21 飲酒 6 塩分摂取 1.6 過体重・肥満 1.1 果物摂取不足 0.7 野菜摂取不足 0.6 運動不足 0.4 外因性ホルモン使用 0.2 ○予防可能なリスク要因 ・日本では男性のがんのおよそ55%(がん発生については53%、がん死については57%)は予防可能なリスク要因によるものだった。一方、女性では予防可能な要因はがんの30%近く(がん発生とがん死でそれぞれ28%と30%)を占めた。 ○食事要因 ・欧米の推定よりもはるかに小さいことが示された。 これについては、日本人の食事がもともと健康的であることのほかに、この研究では塩分、果物不足、野菜不足に限って推計していることが挙げられる。日本人の食習慣を調査で正確に把握することは難しく、誤分類などによって、本来のリスクが過小評価される可能性がある。 ○過体重や肥満 ・過体重や肥満の影響が小さいのは、日本人の極端な肥満(BMI≧30)の割合が男女とも3%前後と少ないため。 ・日本とアジアの集団での多くの研究が、むしろ低BMIとがんリスクの関連を報告していることを考えると、低BMIのPAFについてはさらなる調査が必要。 ○注意点 ・職業的リスク、大気汚染、紫外線や放射線曝露などの要因については、日本における信頼性の高いデータが無いことから含まれていない。 ・日本人のがんの半分以上は原因がわからないまま。この問題の解決には、がんの原因について的をしぼったさらなる研究が必要。 ※参考サイト 日本におけるがんの原因 | 国際共同プロジェクトへの参加 | 国立がん研究センター 社会と健康研究センター
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●5つの健康習慣とがんのリスクについて ・がんとの関連が重要視されている喫煙、飲酒、食事、身体活動、肥満度の5つの要因の組み合わせによって個人の10年間でがんを発生する確率を求めた。 ○全体の結果 ・男性では、単独での効果が高いものから並べると、非喫煙、節酒、塩蔵品を控える、活発な身体活動、適正BMIの順であった。 ・女性の場合、非喫煙の次は活発な身体活動、適正BMIとつづき、節酒、塩蔵品を控える、は下位という結果だった。 ○男女の比較 ・45歳、55歳では男女差はあまりないか、女性の方ががんの発生確率は高い傾向。 子宮頸がんや乳がんなど、比較的若年で発生するがんが女性には含まれるためと思われる。 ・60歳以上になると、全体に男性の方が女性に比べて同じ習慣でもがんを発生する確率が高まる結果となった。 特に60歳以上でいずれの健康習慣もない人のがん発生確率は男性は女性の2倍だった。 さらに、男性においては5つの健康習慣のいずれも実践しない人は、全てを実践する人の2倍の確率であった。いずれにしても健康習慣の実践の差は年数を経るごとに広がってしまうのが現実。
●他の研究事例
〇米国がん協会のファーハド・イスラミ博士らの研究チームからの報告 ・既知のリスク因子の有病率とその相対リスクを用いて、こられの因子に起因するがんの割合を推定。そして実際のがんデータに適用して26種類のがんと全体の症例数および死亡数を推定した。 ・使用されたリスク因子には、喫煙、副流煙、肥満、飲酒、赤肉・加工肉摂取、果物・野菜の低摂取、食物繊維の低摂取、カルシウムの低摂取、身体不活動、紫外線、6週のがん関連感染症が含まれた。 ・解析の結果、2014年の米国における全がん症例の42%と全がん死亡例の45.1%は、これらの変更可能なリスク因子に帰すことができることが明らかになった。 リスク因子 発症の寄与率 死亡の寄与率 喫煙 19% 28.8% 肥満 7.8% 6.5% 飲酒 5.6% 4.0% 紫外線 4.7% 1.5% 身体不活動 2.9% 2.2% 果物・野菜の低摂取 1.9% 2.7% HPV感染 1.8% 1.1% ・これら既知の変更可能なリスク因子の寄与率が最も高いがんは、肺がんであり、大腸がんがこれに続いた。 いくつかの主要ながんの発症にはこれらリスク因子が高い割合で寄与していた(肺がんは85.8%、肝臓がんは71%、大腸がんは54.6%、乳がんは28.7%)。 ・肥満、飲酒、貧しい食生活、身体不活動の組み合わせの寄与率を計算した結果、これら4つの因子のトータルの寄与は、男性の発症の13.9%、女性の発症の22.4%、男性のがん死の14.9%、女性のがん死の16.9%であった。 ※参考文献 Proportion and number of cancer cases and deaths attributable to potentially modifiable risk factors in the United States
・肺がんだけでなく、口腔、咽頭、喉頭、食道、胃、大腸、膵臓、肝臓、腎臓、尿路、膀胱、子宮頸部、鼻腔、副鼻腔、卵巣のがん及び、骨髄性白血病に対して発がん性があることが”確実”と評価されている。
●日本人を対象とした研究
・食道、肺、胃、膵臓、子宮頸部に対しては”確実”、肝臓に対しては”ほぼ確実”、大腸(直腸)と乳房に対しては”可能性あり”という評価。
・非喫煙者に対する喫煙者のがん全体のリスクは、5つのコホート研究のメタアナリシスにより1.5倍(男性:1.6倍、女性:1.3倍)と推計。
また、日本人を対象とした複数のコホート研究を統合したデータに基づくと、がん死亡のリスクは、男性2倍、女性1.6倍程と推計。
上述の相対リスクと喫煙者の割合などから推計すると、日本人のがん死亡の約20%~27%(男性では30~40%程度、女性では3~5%程度)は喫煙が原因であり、喫煙していなければ予防可能であったと言える。
●喫煙期間とがんのリスク
・喫煙本数、喫煙期間、喫煙開始年齢等との関連では、トータルの喫煙量が多くなればなるほど、リスクが高くなる。
・逆に、禁煙期間が長ければ長くなるほどリスクが低下する。
●たばこの煙の発がん物質
・たばこの煙には約4千種類の化学物質が含まれていて、その中にはニトロソ化合物、多環芳香族炭化水素、芳香族アミン、アセトアルデヒド、砒素等、約60種類の発がん性化学物質が含まれている。
・たばこの煙の経路となる喉、気管支、肺等、呼吸器系の臓器だけではなく、発がん物質のいくつかは血流に乗って運ばれ、あらゆる臓器に影響が及ぶ。
●たばこ関連のがん、受動喫煙
・喫煙は、口腔、咽頭、喉頭、肺、食道(扁平上皮がん)、膵臓、腎盂、膀胱、鼻腔・副鼻腔、食道(腺がん)、胃、肝臓、腎細胞、子宮頸部のがんと、骨髄性白血病などで発がん性があると評価されている。
・自分ではたばこを吸わなくても、家庭や職場で他人の煙を吸い込んでしまう受動喫煙では、肺に対して発がん性があることも確実とされた。
●男性のがんの3割はたばこが原因
・40~69歳の一般住民約9万人を8~11年追跡した結果、喫煙者が何らかのがんになるリスクは、非喫煙者に比べ男性で1.6倍、女性で1.5倍高くなっていた。
たばこを吸っていたけれどもやめた人では、男性で1.4倍、女性で1.5倍だった。
・上記の相対リスクを日本の喫煙者や禁煙者の割合に当てはめて推計すると、男性のがんの29%に当たる年間約8万人、女性のがんの4%にあたる年間約8千人、合計で年間約9万人に、喫煙が原因のがんが発生したという結果になった。
ミネラル ナトリウムの概要の”ナトリウムとがんとの関連”
・日本人を対象とした研究で、食塩摂取量の多いグループで胃がんのリスクが高まることが男性で示された。
女性でははっきりした関連は見らなかったが、いくら、塩辛、練りうになどの特に塩分濃度の高い食品をとる人ほど胃がんのリスクが高いことは男女共通して見られている。
・漬物、塩魚、塩蔵魚卵などの塩蔵食品はがん全体、また、胃がんのリスクを上げることが示されている。
・高濃度の塩分は、胃粘膜を保護する粘液を破壊し、胃酸による胃粘膜の炎症やヘリコバクター・ピロリ菌の持続感染を引き起こすことで、胃がんリスクを高めると推測される。
塩蔵食品の保存過程では、ニトロソ化合物などの発がん物質が多く産生される。
・ナトリウム全体としてはがんとの間に特に関連は認められていない。
・食塩に起因するがん罹患および死亡の割合はそれぞれ男性で1.9%, 1.5%, 女性で1.2%,1.2%と試算されている。
・食塩摂取とがん、特に胃がんの関係について多くの報告がある。 世界がん研究基金・アメリカがん研究財団は、食事とがんに関する研究報告を詳細に評価した。その結果、塩漬けの食品、食塩は胃がんのリスクを増加させる可能性が高いとした。 日本人を対象としたコホート研究では、食塩摂取量が胃がん罹患率及び死亡率と正の関連を示すことが明らかにされ、塩蔵食品摂取頻度と胃がんのリスクとの強い関連も示された。 日本人を対象とした研究も含むメタ・アナリシスでは、高食塩摂取は胃がんのリスクを高めると報告されており、別のメタ・アナリシスでも食塩摂取量が増えるに従い、胃がんのリスクが高くなると報告されている。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●食塩・塩蔵食品摂取と胃がんとの関連について ○食塩摂取量との関連 ・男性では、食塩摂取量が高いグループで胃がんリスクも明らかに高く、約2倍になった。 ・女性では明らかな関連が見られなかった。 これは、実際に食塩摂取量とは関連がないという解釈に加え、女性の中で胃がんになった人が少なく正確なデータが出なかったこと、また、男性と比べて、女性ではアンケート調査という方法から食塩摂取量を正確に把握しにくいことなどの解釈が考えられる。 ○塩分濃度の高い食品との関連 ・日本人に特有の、塩分濃度の高い食品には、味噌汁、つけもの、塩蔵魚卵(たらこ、いくらなど)、塩蔵魚(目ざし、塩鮭など)、その他の塩蔵魚介類(塩辛、練りうになど)などがある。 ・それぞれの食品について、摂取頻度別にグループ分けして胃がんリスクを比べてみると、男性ではいずれの食品でも摂取回数が増えるほど胃がんリスクも高くなった。 ・塩分濃度が10%程度と非常に高い塩蔵魚卵と塩辛、練りうになどでは、男女ともに、よく食べる人で胃がんリスクが明らかに高くなった。 ・総合的な食塩摂取量による胃がんリスクを反映しているのかもしれないが、塩分濃度が高い食品が、特にリスクになるものと解釈出来る。 あるいは、食塩だけでなく、塩蔵加工で生成される化学物質が胃がんリスクに関わっているのかもしれない。 ○食塩による胃がん発生のメカニズム ・動物実験などから、胃の中で食塩の濃度が高まると粘膜がダメージを受け、胃炎が発生し、発がん物質の影響を受けやすくなることが示されている。 そのような環境では、ヘリコバクター・ピロリという細菌の感染も起こりやすくなることが知られている。
●塩分・塩蔵食品と、がん・循環器疾患の関連について ・追跡開始時におこなった食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、ナ トリウムと個々の塩蔵食品(塩蔵魚類または干魚、たらこ等の魚卵)の1日当たりの摂取量を少ない順に5グループに分け、その後に生じた何らかのがん・循環器疾患の発生率を比べた。 ○ナトリウム(食塩)摂取量とがんとの関連 ・ナトリウム摂取によるリスク上昇は見られなかった。 ○ナトリウム(食塩)摂取量と循環器疾患との関連 ・ナトリウムの高摂取によって循環器疾患発症リスクが高くなった。 ・塩分そのものは血圧を上げることから脳卒中など循環器疾患のリスクになることが良く知られている。 ○塩蔵食品の摂取量とがんとの関連 ・塩蔵魚類または干魚、たらこ等の魚卵といった塩蔵食品の高摂取によって何らかのがんのリスクが高くなった。 ・塩分濃度の比較的高い食品であるというだけでなく、塩蔵の過程で生成されるニトロソ化合物が日本人に最も多い胃がんのリスクを上げたことによるものと示唆される。 ○塩蔵食品の摂取量と循環器疾患との関連 ・塩蔵食品摂取によるリスク上昇は見られなかった。 ・塩蔵食品は、魚介類にはn-3系脂肪酸(EPA、DHAなど)、野菜類にはカリウム・抗酸化物質など、循環器疾患に予防的な栄養素も含んでいる。
飽和脂肪酸、肉の摂取と健康への影響の”肉の摂取とがんのリスク”
・ハム、ソーセージなどの加工肉および赤肉(牛・豚・羊など。鶏肉は含まない)は大腸がんのリスクを上げる”可能性がある”。
・ハム、サラミ、ベーコン等、貯蔵肉と大腸がんとの関連は、おそらく確実とされている。
・牛、羊、豚等の赤身肉と大腸がんとの関連が複数報告されているが、評価はまだ定まっていない。
・肉については種類だけでなく、調理法による違いがあるのではないかと考えられ、研究されている段階。
・国際的な基準では赤肉の摂取は1週間に500gを超えないようにすすめている。
・肉類については、貯蔵や加熱等の調理によって生じるニトロソ化合物、ヘテロサイクリックアミン、多環芳香族炭化水素などの発がん物質や、肉や脂肪による腸内細菌叢の変化等のメカニズムが考えられる。
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●アジア人における肉摂取と循環器死亡との関連 ・バングラデシュ、中国、日本、韓国、台湾の8集団(計296,721人)を対象にして、肉摂取と循環器死亡の関連を調べた。 ○肉類摂取と死亡との関連 ・全肉摂取と全死因死亡、がん、循環器死亡との関連は男女ともに認められなかった。 ・赤肉摂取により男女ともに全死因死亡のリスクが低下することが分かった。 さらに赤肉摂取は男性の循環器死亡、女性のがん死亡低下とも関連することが分かった。 ○西欧諸国と異なる傾向の理由の推測 ・近年アジア諸国ではがんと循環器死亡が増加し、幾つかのがんによる死亡率は西欧諸国に近づきつつある。 アジアでの肉類摂取増加傾向を踏まえ、動物性脂肪の多い西欧型食生活ががんや循環器死亡増加の原因ではないかと議論されてきた。 しかし今回の結果では肉類摂取と死亡率増加との関連は見られなかった。 アジア人集団では関連が見られなかった理由として以下が考えられる。 ・ほかの社会経済要因、ライフスタイルの変化や肥満が大きく関係している可能性がある。 ・食生活の変化がアジアの多くの地域では進行中である。 ・アジアでは肥満、高血圧、喫煙など他の危険因子が、がんや循環器死亡増加の主要リスクである。
・熱い飲食物で口腔、咽頭、食道のがんのリスクが高くなる。
・アフラトキシンというカビ毒で肝がんのリスクが高くなることが”確実”と判定されている。
・飲食物を熱い状態でとることは食道がんのみならず食道の炎症のリスクを上げることを示す研究結果は多数ある。
しかし、たくさん食べれば食べるほどがんの予防効果があるというデータはない。
・野菜・果物と脳血管疾患およびがん全体との関連を見た研究では、果物と脳血管疾患との間に負の関連が見られたのに対し、がん全体との間には特に関連は見出されなかった。
・週1回未満に比べて週1-2回、3-4回、ほぼ毎日摂取するグループのリスクは黄色野菜では摂取頻度に応じて段階的に低下。しかし、緑色野菜、他の野菜、果物においては週1-2回摂取すれば、それ以上頻度を増やしてもリスク低下は週1-2回の場合と同等。
・大腸がんにおいて、野菜・果物はリスク低下と関連していなかったが、食物繊維の最も摂取量の少ないグループは、最も摂取量の多いグループに比べて2.3倍に上昇。
・野菜と果物については、カロテン、葉酸、ビタミン、イソチオシアネート等さまざまな成分が、体内で発がん物質を解毒する酵素の活性を高める、あるいは生体内で発生した活性酸素などを消去するなどのメカニズムが考えられる。
※野菜・果物のがんに対する効果については以下の記事参照。
・果物の効用
・野菜、果物全般の健康効果の”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
・カロテノイド、リコペンの概要、効果、健康影響
●国際評価
・口腔、咽頭、喉頭、食道、大腸(男性)、乳房のがんのリスクを上げることが”確実”。
・肝臓、大腸(女性)のがんのリスクを上げることも”ほぼ確実”。
・刊行論文のメタ解析と、世界疾病負担研究との結果より、飲酒が非感染性疾患死亡に寄与する割合は3.4%と試算。
特にがん、高血圧・出血性脳卒中・心房細動を含む心疾患、脂肪肝・アルコール性肝炎・肝硬変などの肝疾患、膵炎では関連が強く見られる。
●日本人を対象とした研究
・飲酒によりがん全体のリスクが上がることは”確実”と評価。
部位別には、肝臓、大腸、食道のがんにおいてその影響が”確実”。
・日本人を対象とした疫学研究では、喫煙者に限って、飲酒量が増すほどがん全体のリスクが高くなるという相互作用が観察されている。
・飲む場合は1日あたりアルコール量に換算して約23g程度(日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウィスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度)、週150g程度の量にとどめるのがよい。
適量の飲酒が心筋梗塞や脳梗塞を予防する効果もあるので、1日平均23g以下にとどめるのが重要。
・飲酒が全がん罹患、死亡の原因として寄与する割合はそれぞれ男性で9%, 8.6%、女性で2.5%, 2.5%と試算されていて、男女共に喫煙・感染に次いで寄与の高い要因であることが示された。
●メカニズム
・発がん物質が体内に取り込まれやすくする作用や、アセトアルデヒドによる影響、薬物代謝酵素への影響、エストロゲン代謝への影響、免疫抑制、栄養不足等によるメカニズムが考えられる。
・飲酒頻度や飲料の種類よりも、エタノール摂取量との関連が強いと考えられている。
・アルコールの通過経路である口腔、咽頭、食道等の上部消化管のがん、体内に吸収されたアルコールの分解を担う肝臓のがん、ホルモンと密接な関連を持つ乳房のがんのリスクをあげることが、”確実”とされている。
※以下の記事も参照。
アルコールの効能、リスクの”アルコールとがんとの関連”、”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
●他の研究事例
〇米国ハーバード大学の研究報告 ・米国の大規模コホート研究の、88,084名の女性と47,881名の男性の30年以上にわたる追跡データから、アルコールに関連するがんとして、大腸がん、女性の乳がん、肝がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がんのリスクと飲酒の関連性をみた。 ・軽度から中程度の飲酒は、女性なら15gのアルコール、男性なら30gのアルコール摂取をさす。女性ならビール1缶、男性なら2缶程度である。 ・全体的にみて、軽度から中程度の飲酒は、全てがんのリスクはほとんど高めないようだが、女性の場合、軽度から中程度の飲酒は、アルコールに関連するがん、主として乳がんのリスクを高めた。 アルコール関連のがんについては、男性の場合は喫煙経験者のみにリスクの上昇が認められた。 ※参考文献 Light to moderate intake of alcohol, drinking patterns, and risk of cancer: results from two prospective US cohort studies.
●国際評価
・肥満は、大腸、乳房(閉経後)、食道、子宮体部、腎臓、膵臓の各部位のがんのリスクを上げることは”確実”と評価。
・主に西ヨーロッパと北米の研究では、BMI 22.5-25を底とするU字形の関連。
BMI 25以上の過体重が脈管系疾患、がんに寄与する割合はそれぞれ米国で29%、8%、英国23%と6%と試算された。
・アジアの研究では、日本、中国、韓国を含む東アジアにおいてBMI 22.6-27.5を底とするU字形の関連。
がん死亡、心血管系疾患死亡、その他の死因による死亡でも同様の関連。
一方、インドとバングラデッシュでは低BMIにおいてこれらのリスク上昇をみとめたものの、高BMIにおいてはリスクは上昇せず、同じアジアでも国によって結果が異なることが示された。
●日本人を対象とした研究
・肥満は、閉経後乳がんのリスクを上げることは”確実”と評価。
大腸がんおよび肝がんに対しては”ほぼ確実”と評価。
・がん全体としてみたときは、男性においてBMI 18.5未満のやせについて、また、女性においてBMI 30以上の肥満においてリスクが上昇することは”可能性あり”と評価。
・BMIが1増加するごとに大腸がんのリスクは男性で1.03倍、女性で1.02倍、閉経前・閉経後乳がんはそれぞれ1.03倍、1.05倍上がる。
・BMIと全死亡、がん死亡(男性)のリスクとの間には逆J字形の関連。
女性においては30以上の肥満でのみがん死亡のリスク上昇が見られ、男女ともBMI 21-27あたりが最も全死亡のリスクが低い範囲であることが示された(Sasazuki et al. J Epidemiol 2011)。
・BMIとがん全体の発生リスクとの関係を調べた、日本人中高年期(40~69歳)男女約9万人を対象とした研究では、男性の21未満のやせでのみ、リスクの上昇が認められた。
また、別の日本人中高年期(40~64歳)男女約3万人を対象とした研究では、女性の27.5以上の肥満でのみ、リスクの上昇が認められた (Kuriyama et al. Int J Cancer 2005)。
・上記のように、肥満とがん全体との関係は、欧米とは異なり、日本人においてはそれほど強い関連がないことが示されている。
むしろ、やせによる栄養不足は免疫力を弱めて感染症を引き起こしたり、 血管を構成する壁がもろくなり、脳出血を起こしやすくしたりすることも知られている。
●日本における現状と対策
・2009年の国民健康・栄養調査によると、20歳以上でBMIが25以上である割合は、男性31%、女性21%、一方、18.5未満の痩せの割合は、男性4.4%、女性11%と推定。
・肥満については、BMIが30を超えないと明らかなリスクの増加が認められていないが、日本人において30以上である割合は、男性4.3%、女性3.5%にすぎないので、肥満対策によるがん予防効果は、小さいと思われる。
・むしろ、日本人中高年においては、BMIが21未満の痩せにおけるがんのリスクの増加も示され、その割合も20%を上回っているために、痩せ対策によるがん予防効果の方が大きい可能性がある。
・肥満対策は、糖尿病や高血圧などの予防に有効である一方、痩せ対策は、感染症や脳出血の予防にも効果があるので、肥満、および、痩せの割合を減少させることが重要な課題。
●メカニズム
・肥満については、脂肪組織から放出される女性ホルモンのエストロゲン(子宮体がん、閉経後乳がん)や、インスリン抵抗性(インスリンの働きが弱まること)による高インスリン血症(減少したインスリンを補うために、インスリンが大量に放出されること)や遊離型インスリン様増殖因子の持続的増加(結腸がん)、胃酸の胃-食道逆流(食道腺がん)等、さまざまなメカニズムによるリスク上昇が考えられる。
・日本人などアジアのコホート研究では、過体重でのがん発生リスクの増加は一部のがんでは認められるものの、がん全体に対してははっきりとはみられない。むしろ、やせすぎによるリスクの増加が観察されている。
これは、栄養不足に伴う免疫機能の低下や抗酸化物質の不足等によるものと推察されている。
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●肥満度(BMI)とがん全体の発生率との関係について ・調査開始時の身長と体重から肥満度(BMI)を算出し、それを7グループに分けて、その後のがん全体の発生率を比較した。 ○がんの発生率の結果 ・男性では、BMIが21-29では、がん全体の発生率はほとんど同じだったが、BMIが21未満のやせているグループと30以上の非常に太っているグループで発生率が高くなるU字型の傾向がみられた。 特に、非常にやせているグループでのがん全体の発生率の増加は顕著で、BMIが19未満の最もやせているグループの発生率は、BMIが23-24.9のグループと比較して、約30%高くなっていた。 よく、がんになった結果やせたのではないか、といわれるが、研究が始まって数年間以内にがんにかかった人を除いても、同じ結果だったので、もともと非常にやせているということで、将来がんになりやすいのではないかと考えられる。 ・女性では、太っていてもやせていても、その後のがん全体の発生率には特に違いがみられなかった。 ○がんの死亡率の結果 ・やせているグループと太っているグループでがんの死亡率が増加するU字型の傾向で、罹患率との関係よりもやせによる死亡率の増加がより顕著だった。 ○推察 ・日頃から非常にやせている人はそれほどやせていない人と比べてがんになりやすいと同時に、がんになった後の回復力も弱いのではないかと推察される。
●他の研究事例
〇従来の過剰な体重とがんとの関連のエビデンス ・2002年、過剰な体重と結腸がん、食道がん、腎臓がん、乳がん、子宮がんの高リスクが関連する十分なエビデンスを見出した。 〇ワシントン医科大学からの報告 ・調査結果は、世界保健機関(WHO)のがん専門研究機関である国際がん研究機関(IARC)により分析さされた過剰な体重とがんリスクに関する1,000以上の研究のレビューに基づいている。 ・研究者らは、過剰な体重・肥満に関連する更なる8種類のがん(胃、肝臓、胆嚢、膵臓、卵巣、髄膜腫(脳腫瘍の一種)、甲状腺がん、血液がんである多発性骨髄腫)を特定した。 ・新たに拡張されたリストのがんの多くに関し、研究者らは、正の量-反応関係(より高いBMIで、がんリスクがより高い)を指摘した。 ・過剰な体重に関連したがんリスクは、男女とも同様であり、データが利用可能であった北アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中東のような地理的領域において、一貫していた。 ・過体重もしくは肥満であることががんリスクを増加させる理由については多くの要因があるが、研究者は以下を指摘している。過剰な脂肪は、エストロゲン、テストステロン、インスリンの過剰産生につながり、炎症を促進するが、これら全ては、がんの成長を引き起こす可能性がある。 ※参考文献 Body Fatness and Cancer ? Viewpoint of the IARC Working Group
・身体活動を上げること(運動)は、大腸(結腸)がんのリスクを下げることは”確実”、また、閉経後乳がん、子宮体がんのリスクを下げることは”ほぼ確実”、と評価されている。
●日本人を対象とした研究
・日本人を対象とした8研究に基づいて、身体活動は、大腸(結腸)がんのリスクを下げることは”ほぼ確実”と評価している。
●運動の予防効果
・肥満の解消、インスリン抵抗性(インスリンの働きが弱まること)の改善、免疫機能の増強、腸内通過時間の短縮、胆汁酸代謝への影響等のメカニズムが考えられる。
・大腸がんのうち、結腸がんの予防効果は確実であり、乳がんの予防効果もおそらく確実とされている。
●他の研究事例
〇米国国立がん研究所からの報告 ・欧米国の12のコホート研究の中で、で1987-2004年の間に、身体活動を自己申告したデータのプール解析を行った。具体的には、余暇の身体活動レベルと26種類のがんの発症との関連を分析した。 ・対象者は、140万人であり、平均11年間の追跡期間に、18万6,932名ががんを発症した。 ・余暇の高い身体活動レベルの運動を行っていた者は、低い者に比べ26種類のうち13種類のがん(食道線がん、肝臓がん、肺がん、腎臓がん、胃がん、子宮がん、骨髄性白血病、骨髄腫、大腸がん、頭頸部、直腸がん、膀胱がん、乳がん)の発症率が低かった。 ・体格や喫煙歴を調整した後でも高い身体活動レベルの運動とがんの予防効果が見られた。 ・全てのがんに対しても、がんの発症率は7%低下した。 ・身体活動レベルは前立腺がんを5%高め、悪性黒色腫を27%高めた。これは、米国の紫外線レベルが高い地域で関連が認められたが、低い地域では関連がなかったことが示された。 ・研究者らは限界点として、食事や喫煙などの他の要因の影響を指摘している。 ※参考文献 Association of Leisure-Time Physical Activity With Risk of 26 Types of Cancer in 1.44 Million Adults
・日本については胃がんや肝がんが多いため、感染に起因するがんは20%と、先進国の中では高いほう。
・持続感染によるがんは、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型の肝炎ウイルス(HCV)による肝がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリ菌(Hp)による胃がんがその大半を占めている。
・そのほかに、EBウイルスによる悪性リンパ腫や鼻咽頭がん、ビルハルツ住血吸虫による膀胱がん、タイ肝吸虫による肝がん、ヒトT細胞性白血病ウイルスによる白血病、悪性リンパ腫等がある。
・予防策としては、ワクチン投与による感染予防(HBV)、感染者への投薬による感染体の駆除(HCV、Hp、住血吸虫)、抗炎症薬による対症療法等があげられる。
例)
(物質) (がんの部位)(主な産業・使用) 煤煙 皮膚、肺 顔料 コールタール 皮膚、肺 燃料 2-ナフチルアミン 膀胱 染料・顔料製造 ベンジジン 膀胱 染料・顔料製造 塩化ビニル 肝臓 プラスチックモノマー 砒素および化合物 肺、皮膚 ガラス、金属、農薬 カドミウムおよび化合物 肺 染料・色素製造 クロム(VI) 化合物 鼻腔、肺 鍍金、染料・顔料製造 ニッケル化合物 鼻腔、肺 治金、合金、触媒 アスベスト 肺、胸膜中皮腫 断熱材、フィルター材、繊維 ダイオキシン 複数の臓器 非意図的産生
・職業がんには、肺がんをはじめ化学物質が直接接触する皮膚、吸入の経路である鼻腔、喉頭、肺、胸膜、そして排泄される尿路等のがんが多いのが特徴。
・日本では、”石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫”、”ベンジジンや2-ナフチルアミンにさらされる業務による尿路系腫瘍”、”コークス又は発生炉ガスを製造する工程における業務による肺がん”、”クロム酸塩又は重クロム酸塩を製造する工程における業務による肺がん又は上気道のがん”等がある。
・がんの発生には一定の潜伏期間があり、過去に接触していた発がん物質が現在、未来のがんを生み出すことになる。
アスベストについては、20~40年の潜伏期間があるので、日本では2030年ごろに、胸膜中皮腫発生のピークを迎えることが予想される。
・アスベスト鉱山や製造工場の周辺住民、またはそれらの労働者と同居する家族に、悪性中皮腫などアスベスト特有のがんが発生している。
・工場排気や自動車排ガス等に含まれるベンツピレン、ベンゼン、クロム等による大気汚染は、先進国では肺がんの原因の5%未満程度になっているものと推計されている。
・フロンガスによるオゾン層の破壊の影響で地上に届く有害な紫外線が増加しつつあり、北米やオーストラリア等で皮膚がんのリスクの上昇が問題になっている。
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●長期的な粒子状物質への曝露と循環器疾患の発生および死亡との関連について ・粒子状物質への長期曝露と循環器疾患の発生および死亡との関連を検討した。 日本で測定されている粒子状物質は、SPMと呼ばれる大きさ10μm以下の浮遊粒子で、大気汚染防止法第22条に基づいて、環境大気の汚染状況を常時監視(24時間測定)している一般環境大気測定局が測定したデータを利用して粒子状物質の濃度を求めている。 ○虚血性心疾患(心筋梗塞など)と脳卒中の死亡リスク ・粒子状物質の濃度が10μg/m3上昇した場合、粒子状物質の濃度上昇に伴い、虚血性心疾患(心筋梗塞など)の死亡リスクが高くなる傾向を認めたが、統計学的に有意ではなかった。 ・粒子状物質の濃度上昇によって、脳卒中による死亡リスクは減少していた。 ○肺がんの死亡リスク ・粒子状物質と肺がん死亡との関連について調べたが、関連を認めなかった。
・血縁者に同じがんの発生率が高いという場合、遺伝子の類似性(遺伝素因)も考えられるが、生活習慣の類似性(環境要因)についても考慮する必要がある。
・飲酒行動は、アルコールを代謝する酵素の働きを決める遺伝素因が考えられるが、その遺伝要因によって飲む、飲まないの生活習慣が決まることがある。
●遺伝素因の占める割合に関する研究報告
(スウェーデン、デンマーク、フィンランドの同性の双子4万5千組についてがんの発生を追跡調査した結果)
・大腸がん、乳がん、前立腺がんの3部位で、遺伝素因の寄与が統計的に有意に検出。
その割合は、大腸がん35%、乳がん27%、前立腺がん42%。あとの残りが環境要因。
ただし、遺伝素因の中にも環境要因の影響を強めたり弱めたりする部分があるので、大部分は環境要因を変えることで予防できると考えらる。
・双子の1人がその3部位のうちいずれかのがんにかかった場合に、もう1人が75歳までに同じがんにかかるリスクは、一卵性と二卵性のそれぞれの場合、大腸がんが11%と5%、乳がんが13%と9%、前立腺がんが18%と3%になっている。
遺伝素因の影響の強いこれらのがんでも、たとえ遺伝子が100%一致していても、同じがんになる確率は1~2割に過ぎないことが示されている。
●遺伝するがんと遺伝しないがん
・全部のがんの5%以下が”遺伝するがん”といわれている。
●体質を決める遺伝子多型という遺伝素因
・遺伝子多型とは、遺伝子を構成しているDNAの配列の個体差。
・体内で発がん物質を活性化させたり、解毒したり、あるいは付加体となったDNAを修復するために、さまざまな酵素がかかわっている。そうした酵素の働きは、体質を決める遺伝子多型によって変わることが知られている。